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S-side
廊下を歩く勢いに、まるでモーゼの海割りのようにすれ違う人がすべて避けていく。
俺は目当ての部屋の前まで来ると、乱暴なノックと同時に部屋に入っていった。
中の会議室では幹部が何人か打ち合わせをしていたようで、ドアの開く音に声が止まり、一斉に俺を見た。
「・・・櫻井・・・?
どうした。今日は仕事だったはずじゃ・・・」
「仕事は調整してもらいました。今日はこれで終わりです。
皆さんにおはなしがあって参りました」
「話し・・・?なんだ?」
俺は口の端を歪ませて目の前の幹部連中を睨みつけた。
「嫌だなぁ・・・とぼけないで下さいよ。
・・・・・・アナタたちが雅紀にしでかしたことについてだよ!!」
俺がそう叫ぶとザワザワと一斉に騒がしくなる。
ニノが調べてくれて、やっと謎が解けた。
雅紀を使って俺と別れさせようとしたこと。
全員のマネージャーを巻き込んで、スケジュールを調整して俺たちを会わせないようにしていたこと。
ただ救いだったのは、マネージャーたちがそのやり方に納得していなかったこと。
幹部連中の命令を渋々聞きながらも、俺たちの心配をしていたこと。
特に・・・雅紀の体調の変化に気づいていて、このままでいいのか各々が葛藤していたこと。
俺のマネージャーが謝罪と共に全部説明してくれた。
俺は今朝方倒れていたと言う雅紀の元へいち早く駆けつけたかったが、それはニノに任せて仕事を巻きに巻いて、俺は諸悪の根源の元へと向かうことにした。
俺は目の前の、その『諸悪の根源』どもをキッと睨みつけた。
「櫻井・・・とりあえず落ち着け。
冷静に話し合おう。な?」
「話し合うことなんか、ない」
「櫻井?」
「俺はただ自分の考えを伝えに来ただけだ。
それと・・・雅紀をあそこまで追い詰めた罪を償わせに来ただけだ」
「櫻井。
オマエと相葉の関係はおかしいだろ。
世間一般で受け入れられることじゃない。
もういい加減に目を覚まして、」
「うるせーよ!!!」
自分では落ち着いてると思ってたけど、やっぱりそうじゃなかったな。
昔の血が騒いだってわけじゃないけど、やっぱり雅紀が絡むと俺は冷静ではいられなくなるようだ。
怒鳴りながら蹴り飛ばした目の前の机が転がって行くのを俯瞰的に見ながら自嘲する。
「・・・櫻井!」
「俺は血迷ってもねーし、寝ぼけてもいねーよ!
ただ、愛する者と・・・雅紀と一緒にいたいだけだ!」
「ふたりとも熱に浮かされているだけだ!
冷静になって考えれば男同士なんて不毛な関係、おかしいと気づくはずだ!」
まだ言うか・・・。
いい加減この頭の固い幹部連中に嫌気がさしてきて、今度はコイツらの頭を蹴り飛ばしてやろうかと思い始めた。
「俺たちが安易な、軽い気持ちだけで付き合ってると思ってんのか?
俺たちが付き合い始めるまでどれだけの葛藤や迷いがあったか知んねーだろ!」
「俺たちだってはじめはこの気持ちに戸惑ったんだ。メンバー愛と勘違いしてるだけなんじゃないかって。何度も何度も冷静になって考えたんだ。
俺もアイツも!!」
幹部連中はもう横槍を入れることなく俺の言うことを黙って聞いている。
「それでも・・・気のせいだと思おうとしても・・・
どうしても、惹かれ合うんだ・・・
止まらねーんだよ、アイツを想う気持ちが・・・
それは、何年経っても色褪せることなんかない・・・逆に日に日に濃くなっていって、もうアイツがいない人生なんか考えられなくなるくらい必要なものになったんだよ」
「どうせアナタたちは雅紀に『俺のため』とか言って別れるように言ったんだろ。
優しい雅紀のことだ。自分のことより人のこと。
雅紀は俺のために別れることを決断した。
でもな、雅紀はひとつ間違いを犯してた。
雅紀が『俺のため』にしたはずのこの決断は・・・決して『俺のため』なんかじゃなかったんだよ!!」
俺の怒号が響き渡る。
「・・・俺はもう・・・雅紀がいないと息すらまともにできないんだよ!!」
叫びながら自分の目尻に涙が溜まってきてるのがわかる。
これ以上しゃべり続けると嗚咽に変わりそうだ。
それでもまだ言いたいことは山ほどある。
カチャ・・・
まだ言ってやろうと口を開けたとたん、小さくドアが開く音が聞こえて、俺はゆっくりと後ろを振り返った。
「・・・雅紀・・・」
「しょー、ちゃん・・・」
俺以上に涙を流している雅紀。
真っ赤な目からボロボロと涙が止めどなく流れている。
それを一切拭おうとしないまま、雅紀はゆっくりと部屋の中へと歩を進めてきた。
「しょー、ちゃ・・・」
少し足元が縺れた雅紀を慌てて支えるように抱きしめる。
「雅紀!オマエ体大丈夫なのか!?」
「だいじょーぶ・・・オレの特効薬は、しょーちゃん、だから・・・
しょーちゃんの顔見たら元気になっちゃった・・・」
「元気にって・・・めっちゃ泣いてんじゃねーか。
フラフラだし」
俺が冗談交じりにそう言うと雅紀が嬉しそうに笑った。
心配するほどの熱があるようには思えなくて安心した。
「だって・・・しょーちゃんがあんなこと言ってくれたんだもん・・・」
「ホントのことしか言ってねーよ?」
「ん・・・オレも・・・やっぱり、しょーちゃんがいないと生きていけない・・・
息ができない・・・」
「もう俺と別れようとなんかすんなよ。
俺の幸せは、オマエと一緒にいることなんだから。もう、間違えんな」
「うん・・・ごめんね・・・」
「もう一生離さねーから・・・
雅紀、愛してる・・・永遠に、愛してる・・・」
「ん、オレも・・・しょーちゃんを、愛してる・・・」
しばらく見つめあってると、ドア付近から咳払いがした。
「ん?」
見ると、ニノが顔を赤らめながら、でも安心したような顔で俺たちを見ていた。
「おふたりさん、感動の再会はいいけどこんなとこでラブシーンなんか始めないでくれます?
幹部連中、目のやり場に困ってますけど」
「「え・・・・・・」」
ふたりして今度は反対側の幹部連中に目を向けると、あからさまに顔を背けられる。
「あ、わ、悪りぃ・・・」
俺は雅紀を支えながらゆっくりと立ち上がると、幹部連中の方を向いた。
「まぁ、そういうわけだから・・・
俺たちを別れさせようとか言う計画は失敗という事でお願いしますよ」
「櫻井・・・でも、オマエの将来は・・・」
まだ性懲りも無くそんなことを言う幹部を思いっきり睨みつける。
「まだそんなこと言ってんのか?
俺は雅紀を犠牲にしてまでやりたいことなんかひとつもないね。
例え、芸能界を追放されたとしても、雅紀と一緒にいられるなら全然かまわない」
「しょーちゃん・・・」
雅紀がまだ心配そうに俺を見るけど、こうなったら思ってること全部吐き出してやる。
「もしまた今度雅紀をけしかけて俺たちの仲を裂こうってんなら・・・その時は俺たちの関係を世間にバラすからな」
「・・・なっ・・・!」
「俺は世間がどう思おうと関係ねぇ。
バッシングでもなんでも受けてやる。
その事で離れていくファンがいてもしょうがない。
世の中の全員に認めてもらおうなんて思ってない。
芸能界にいられなくなるのならそれもしょうがない。
ただ俺は・・・愛する雅紀と一生離れたくないだけだ。
そのためなら・・・俺はなんだってする」
雅紀の抱いた腰に力を込める。
「でも俺たちは仕事も大事なんだ。
それも簡単に放り出せるようなもんじゃない。
求められてる仕事は全力でする。
愛と仕事を天秤にかけるつもりはねぇから、そのせいで仕事に支障がでることはしねぇ。
それだけ・・・雅紀とのことは本気だ」
「しょーちゃん・・・・・・
オッ、オレも!」
そう言って雅紀も正面を向く。
「皆さん、約束守れなくてごめんなさい。
でも、やっぱりオレも、しょーちゃんと別れるなんてムリです。もう離れられない。
こんなオレが、しょーちゃんに釣り合うとは思ってないけど、それでも、オレなりにがんばっていくので、これからのオレを見ててください」
そう言ってピョコンと頭を下げる雅紀。
「コラ、俺に釣り合ってないけど、だけ余計だ。
俺こそ、雅紀に相応しい男になるから、な?」
「しょーちゃんはそのままでじゅーぶんだよ。
オレにはもったいないくらい」
「何言ってんだ。俺こそ雅紀の隣にいても恥ずかしくないくらい立派になんなきゃ」
「違うよ、オレがしょーちゃんに相応しい男になんなきゃ、」
「イヤ、俺が、」
「オレだって、」
「だぁーーーーっっ!!もういいから!!
終わんねーよ!!
幹部連中も引いてるから!!」
「「え・・・・・・」」
背後には呆れながら声を荒らげるニノと、正面には目を丸くしながらポカンと口を開けている幹部連中。
「ここまで惚気られちゃったらもうこの人たちも口出しできないんじゃない?
もっとも、翔さんが言ってたおどしだけじゃなくて、今度はワタシたち嵐全員を敵に回すことになるけど、ね」
ニノの言うことに幹部連中が一斉に怯む。
「そうだな。
じゃ、雅紀。帰るか」
俺は雅紀の腰をグッと引き寄せた。
「うんっ。しょーちゃん、帰ろ」
雅紀が俺の肩に頭を乗せてくる。
そのまま、俺たちは幹部連中を置いて会議室を後にした。
つづく・・・