猫と夢:(2)プリズム | たぬきのしっぽ ☆彡

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★チンチラたぬきと
メインクーンきつねの生活日記♡


おはようございます。
大ママです。

このたびの豪雨で
被災された方々には
心からお見舞いを申し上げます。

亡くなられた方々には
言葉もないわね。
祈るしかない。

自然には勝てない。
テレビを見ていてそう感じたわ。
いつ何が起きるかわからない。
そのことを痛感したわね。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

 


今度の物語は、
解説はいらないの。
一話完結だから、
読みやすいと思うわ。

あなたに似た人の物語が
あるといいんだけど。
読んでみて、
確かめてみてね。






*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 


南米系と思われる乗客の声が
一段と高くなった。
マオリ族だという観光バスの運転手は
明らかに弱っていた。
観光名所のひとつが悪天候で
端折られた件を突っ込まれて、
返答に窮している。

恐らくは、因縁つけてる側は
ツアー費をまけさせる目的で
騒いでいるのだろうが、
雇われ運転手に
代金をまける権限など
あろうはずもない。

騒ぎは30分近く続いた。
日本人相手ではない
現地ツアーに参加すると、
こういうことは珍しくない。
そして、海外では
 客側のごね得はない。

マオリ族の運転手は
私の隣の運転席にようやく戻ってきた。
そして、残りの乗客に
待たせた 謝罪 をし、
再びバスを発車させ
帰路についた。

大丈夫?と、私は声をかけた。
運転手はニヤっと笑って
オッケー と言った。
いろんな人がいるのが
ツアーバスの楽しみだ、
そう言って運転手は笑った。
つりこまれて
私も笑った。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

 

出発前、徹と何を話したか
今はもう覚えていない。
海外旅行に
気持ちよく送り出してくれたことを
とても感謝している。
その理由がたとえ何であっても。

徹は高校のクラスメートだった。
のっぽで痩せていて
どこかピント外れの受け答えをする
ほがらかな生徒だった。
高校時代も
大学生になっても
社会人になってからも
仲の良い友達ではあったが、
恋人ではなかった。

結婚したのは
適齢期になった時
お互いに
他に適当な相手がいなかったからだ。
こういうのを
自然な成り行きと言うなら
そうなんだろうと思う。

私の両親も
彼の両親も
二人の結婚を望んだし
私も徹も
それにさからう理由がなかった。

私の体の中に
初めて宿った命が
順調にこの世に生まれていたら
なんの疑問も持たず
のんきな結婚生活を続けることも
できたのかもしれない。

全ては
私の不注意から起こった。
結婚した年の暮
、それも夜更けに
私は徹に
どうしても
アイススケートが滑りたいと
ねだった。


イナバウアー とか言って
徹と二人で
ふざけて滑っているうちに
私は つるっと滑ってころんだ。
ころんだら
いつものように起き上がれなかった。
お腹が痛くなり、出血をした。

徹は青ざめて
救急車を呼んだ。
運ばれた先の病院で
医師から妊娠と流産を
同時に知らされ
退院の前に自分が
赤ちゃんを
産めない身体になったことを
理解した。

後から考えれば、
どうして
自分の妊娠に気がつかなかったのか
不思議で仕方がない。
赤ちゃんは女の子だったと聞いた。
残念で仕方がなかった。
どんなに悔やんでも
悔やみきれないと思った。

だが、私はわざと、あっけらかんと
振る舞った。
たぶんそれが
かえって事態を
悪くしたのかもしれない。
徹や徹の親族には、
そういった 私の態度が
無神経 にしか見えなかったらしい。

そんなある日
徹が子猫を連れてきた。
かわいいペルシャの女の子だった。
高校生の時に
徹が子供を持つなら
女の子がいいと
言っていたことを思い出した。

生まれなかった娘の代わりに
子猫を可愛いがるのもいいかな。
私は思ったが
徹は
私がある程度以上
マリと名づけた子猫をかまうのを
嫌がった。

「令子はガサツだから」
その言葉はナイフのように
私のココロに突き刺さった。
徹との間に
目に見えないバリアができた。
それは生活していくにしたがって
ぶ厚くなった。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚  

 
  

マオリ族というのは
ニュージランドに
まだ多く残っているんですか、と
運転手にきいてみた。

いや、残念だがもうあまりいない。
ほとんどが混血になっていてね。
私はその数少ない一人なんだ。
だから、週に三日、観光バスの運転手をして、
週に一回は
マオリの言葉をみんなに教えてるんだ。
マオリの文化を少しでも残したい。

マオリの言葉ってどんな言葉なの?

正確にはそれは言葉じゃない。
しぐさ、と言ったらいいのかな。

例えば「こんにちは」というのは
鼻をさわる。
こういうふうに、ゆっくりと。

運転手は人差し指で
優雅に鼻をタッチし
ゆっくりと鼻から離した。

仕草だけで
分かり合える民族も
昔はいたのだ、と思うと
感慨深い。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

 

子猫の成長は早い。
マリはすくすくと育って
すぐに発情期を迎えた。
来る日も来る日も
マリは外に出たいと騒ぐ。
そうかと思うと
身体を床にこすりつけて
なでてくれ、と飼い主にせがむ。
食欲もなく、夜も眠らない。

これ以上マリを
苦しませるには忍びない
どっちみち
子猫を産ませるわけには
いかないのだから
早く手術をしてやった方がいいと言うと
徹は
令子のように薄情じゃないから
そういう手術をオレはためらうんだと
言い返された。

その夜、徹は寝言で
マリ、マリとうわごとを言った。
その声は発情期のマリと同じくらい
狂おしい声に私には聞こえた。

そう言えば
高校時代徹のいたブラスバンド部に
麻里と言うコがいたっけ。
一学年下のコで
徹をいつも追いかけていた。
「可愛いコじゃない。
つきあってあげなさいよ」と
私が言うと、徹は
「だってあのコ、
すぐ子供産みそうじゃない?
ああいうコ、
苦手なんだよね」と言ってたっけ。

そしてやっと
マリがあの「麻里」であることを
悟った。
同窓会で会ったって聞いたのは
もう数年前、
なんて私は愚かなんだろうと
思った。
悲しかったが
なぜか涙も出なかった。
おそらくココロのどこかで
予期していたものが
あったせいだったかもしれない。




゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

 

山道の途中で、
観光バスが急に止まった。
オークランドまでは
まだ長い道のりがある。
運転手が早くバスを降りろ、とせかす。
降りてみて驚いた。

空に虹がかかっている。
それがとてつもなく美しい。
この世のものとは
思えなくなるくらいの
美しさだ。
さすがの南米系の団体も
感激して言葉もないようだった。
全員で息をのんで、
しばらく空を見つめ続けた。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

 

離婚を
私は強く意識した。
だが、最初のうちは
私の方から別れを切り出すのは
業腹だと思った。

猫に「愛人」の名前をつけて
飼うような男に
何らかの形で
仕返しがしたい気がした。

だが、時間がたつにつれて、
マリという名のあの猫は
私にとっての
プリズムだったかもしれないと
思うようになった。

子猫がうちに来なかったら
私が現実を知るのは
もっと遅くなったかもしれない。
遅くなればなるほど
私は今の位置から脱出できない。

最近では猫のマリは
徹より私の方になついている。
猫は見知らぬ他人の匂いを
嫌うから。

ココロを整理するために
旅に出る、と徹に言ってみたら
理由もきかないで
好きにするといいよ、と答えた。
予想通りの反応、
彼は私にはもう無関心。
それを悲しいとも思わない自分にも
驚いた。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

 

山の中腹から眺めた虹は
徹との古い思い出を
蘇らせた。

高校の文化祭の帰り道
小川の土手を歩きながら
きれいな虹を見た記憶がある。
いつも
徹は私のカバンを持ってくれた。
自分のカバンと私のカバンを
わざと重たそうに持ちながら
確か徹はこう言った。

令子
オレに子供が生まれて
オマエに子供が生まれたら
二人を結婚させようじゃないか。

どうして?

どうしてって
そしたらオレたち
こうやって一生仲良く
暮らせるじゃないか?

そうだね。
そうしよう。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚  

 
 
 

ほら、ホテルに着いたよ、と
運転手が言ったので
私はびっくりした。
普通、観光バスの
ホテルへの送迎は
宿泊ホテルのグレード順だ。
私は安いホテルに泊まっているので
最後になるはずだった。

運転手はウインクをして
さあどうぞと言った。
私は鼻に指をあて
マオリ流の挨拶をして、
バスを降りた。

バスを見送ってから
思った。

帰ったらすぐ
徹君を令子さんから
きれいさっぱり解放してあげよう。
そして、
私もすべてのしがらみから
自由になろう。








<おわり>









長い文を読んでいただいて
ありがとうございます♪







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