猫の物語 参 ニューヨークのボブ<中編>*:..。o○☆ | たぬきのしっぽ ☆彡

たぬきのしっぽ ☆彡

★チンチラたぬきと
メインクーンきつねの生活日記♡

一週間のご無沙汰ね。大mamaです。
皆様お元気かしら。私は先週末お墓参りに行ったの。
甥が車に乗せて連れて行ってくれたのだけど、
降りようとしたらゴロンと転んじゃって……。
草の上だから何でもなかったけど、
若く見えるったって年は年だと自覚したわ。
そうそうニューヨークで野良猫になったボブが
倉庫街のボス猫トビーに会ったところまでだったわね。
ついうっかりネズミたちを捕まえるお手伝いをしてしまったボブ、
どうするのかしらねえ・・・・・・。

 


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚  ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 

「これだけの大仕事を手伝ってもらったんだから、それなりのお礼はしなくちゃねえ」とを倉庫街の猫組のボス猫トビーは大きなしっぽを左右に揺らしながら言った。左の頬には大きな噛み傷があり、右目がつぶれてやぶにらみだった。

「礼なんていいよ。手伝うつもりでやったことじゃないし・・・・・・。それより、キミはこのネズミたちをどうするつもりなのかい?」オレは振り返ってネズミたちを見つめた。ネズミたちはすっかりおびえ切っているようだった。子ネズミが肩を震わせてうつむいている姿を見て、オレは本当にすまないことをしたと悔いた。だが、すでに遅い。

「ところで兄さんはどこに住んでるんだい?」トビーが訊いた。「あいにく宿無しでね。今夜泊まるところを探してるんだ」とオレは答えた。
「そうかい。それじゃうちで住み込みで働かないか?」
「働く?どんな仕事だい?」
「ネズミ処理係さ」
「処理?」
「そうさ」
「どう処理するんだ」
「あんたに任せる」
「オレにまかせていいのか?」
トビーは大きくうなずき、あんたは信用できそうだと言った。

 

  


倉庫街の食料を守るのが、ここで飼われている猫たち、猫組の役目だがね。それはネズミたちがいることで成り立っている。おれたち猫は人間に手柄をたててみせなきゃならないが、ネズミが全滅してしまっては失業してしまう。猫組とネズミたちは決して敵対関係にあるわけじゃないんだよ。これ以上のことは倉庫街のボス猫の立場じゃ言えないけどな。あとはネズミの大将とでも相談してくれ。トビーはやぶにらみの目を細めて笑った。

オレは振り返ってネズミの集団に言った。
「聞いてくれ。お前たちの命を助けたい。だが、トビーたち猫組には、何らかの手柄が必要だ。何か良いアイディアはないか?」
するとやせてヒゲの曲がった尾の白いネズミが進み出た。ネズミの大将ジージョだった。
「はやり病で死んだネズミの死体が屋根裏の隅に並べてあります。それを猫組の手柄として人間の目の届くところに置いてはどうでしょうか?私たちのうち半数は隣の倉庫に移り住み、半数はなるべく活動を控えて今の倉庫に住み続けたいと思うのです」
そうか、そうしよう、とオレは答え、猫組のネズミ処理係としての初仕事を無事終えた。

倉庫街の猫組での生活は快適だった。
トビーは居心地の良い部屋と、十分な食料を与えてくれた。トビーはネズミの大将ジージョと直接連絡をとることはなく、必ずオレを介して話をつけた。倉庫にあるカビの生えた食物を食べたり、害虫に病気をもらったりしてネズミが大量に死ぬたびに、ネズミ軍団を猫組が追いかける大捕り物が計画されたので、オレも結構忙しかった。1か月に1度は、猫とネズミの追いかけっこがあるのだ。

瞬く間に2年の月日が流れ、ある日トビーがオレに言った。
「そろそろお前も身をかためたらどうかと思うんだが、おれに心当たりがあるから、いいコを紹介してあげようか?」
いや、オレには好きな猫がいて、もちろん相手は知らないし、オレのことなんて忘れてるとは思うが、とエンジェルの話をトビーにした。キミにそんな相手がいたなんて、とトビーは驚き、エンジェルのその後を調べて教えてくれるとオレに約束してくれた。コックの嫁の伯母の家は、なんとトビーの兄貴のナワバリだそうで、それならそうと、早く言えばよかったのに、明日には何かわかると思うよ、とトビーはオレに微笑んだ。


エンジェルに会える、と思っただけで、オレは天にも昇る気持ちだった。こんなに会いたかったんだ、と初めて気づいた。オレはこの2年の月日をトビーに出会ったことで救われ、なんとか生きながらえた。だが、エンジェルは?あの冷酷で裏表のひどいババアが本当にエンジェルを可愛がって今でも飼っているだろうか。オレは急に不安な気持ちにおそわれ、眠れぬ夜を過ごした。そして、あくる日の夕方、オレの部屋に現れたトビーの顔色を見て、不安が的中したことを知り、軽いめまいを覚えた。

 


こんな話をするのは残念だが、ココロして聞いてくれ。エンジェルはお前と別れてすぐにブリーダーに売られたらしい。それもニューヨークで一番悪質なブリーダーだ。あそこに売られた猫は2年以内にみんな死んでしまう。なんせ猫族の妊娠確率は100%。あそこじゃ、ろくに栄養もとらせないで、のべつまくなし妊娠させ、産ませっぱなし。病気になればポイ捨てで、ゴミ箱直行さ。エンジェルのことはもうあきらめろ。おれがもっときれいな猫を探してやる。

そう言ってトビーはオレのもとを去ろうとした。エンジェルじゃなきゃだめなんだ、とオレは食い下がった。ほかの猫じゃダメだ。どんな姿になっていようと、エンジェルがエンジェルならいいんだよ。一目でいいから会いたいんだ。トビーは立ち止まって、ため息をついた。ボブ、お前の気持ちはわかった。だが、エンジェルが生きているとして、助けるために猫組を動かすわけにはいかないんだよ。あそこは目立ちすぎる。人目のあるところで騒動した猫は、人間に二度と飼ってはもらえないだろう。オレ一人だけの問題ならいい。でも猫組全体を危険にさらすわけにはいかないんだ。

トビー、エンジェルが生きているなら、オレひとりで助け出す。キミの立場はわかっているし、エンジェルの救助まで頼もうとは思っていない。だが、できればもっと詳しい情報が欲しい。エンジェルが生きているかどうか。生きているなら歩けるかどうか。施設のどこにいるか知りたいし、施設の地図があればありがたい。オレは、半分泣きながら声を絞り出すように言った。わかった、まかせてくれ、とトビーは低い声で答えた。

 


あくる朝、オレはネズミの大将ジージョに起こされた。
「ボビーさん、朗報です。エンジェルさんは生きていますよ」
「え?エンジェルのこと、どうしてジージョが知ってるんだ」
「トビーさんに頼まれましてね、あっしは、ボビーさんを助けてくれって頼まれたんです」
「そうか ありがとう」
ジージョはエンジェルが囚われている施設の詳しい地図を持っていた。もうすぐ、偵察隊を送りますから。偵察隊はエンジェルさんがどこにどう囚われているか探ってきて、ボビーさんを施設内に案内します。なに、きっとうまくいきますよ。あと、少し待っててください。その前に何か召し上がってください。トビーさんも心配していましたよ。

真夜中、人が寝静まってから、オレはジージョとネズミの仲間たちと一緒にブリーダーの施設に入った。幸いにして猫もネズミも夜目がきく。人間が見たら、猫がネズミの軍団を引き連れている姿は、異様に映ったに違いない。施設の番人は、ネズミがコーヒーに入れたバレリアンの粉のおかげで眠っていた。


一番奥の部屋の北の隅に置かれたケージの中で、エンジェルはうずくまるように眠っていた。輝くように美しかった豊かな白い毛は、今は薄汚れ、まばらになって、透けて見える皮膚は赤くなって湿疹ができているようだった。だが、エンジェルはエンジェルだった。オレは震える声で小さくエンジェルと声をかけた。え?、というふうにエンジェルが起き上がった。振り返ったその眼の輝きは緑色で、オレを見つめてはっと驚いた顔になった。
 


話は後ですよ、とジージョがささやき、ケージの鍵を急いで開け、オレはエンジェルの首の後ろをそっとくわえて歩き出した。それから、どういうふうに施設を出て、どういうふうに倉庫街の自分の部屋に戻ってきたか記憶がない。とにかく、気づくとオレはオレの部屋にいて、隣にエンジェルが眠っていた。ジージョとネズミ軍団は気がきくやつらで、弱ったエンジェルのためのハーブや毛布や食べ物まで用意しておいてくれた。

お礼?そんなものはいりませんよ。いつもお世話になっているのはオレたちの方ですから。なんといっても、ボブさん、あなたはオレたちの命の恩人ですから。

オレはエンジェルと一緒に倉庫街を出ていくことを検討した。猫組に迷惑がかかるといけないからだ。だが、トビーは言った。出ていくことはない。ここにエンジェルがいることは、ブリーダーにはばれないよ。もしばれたところで、オレたちが「救出」に関わった証拠はない。本当に関わっていないんだから。それにボブ、お前を失いたくないんだよ、オレと猫組は。

それからオレとエンジェルは一緒に暮らすようになった。子供のころの暮らしが戻ってきたかのようだった。オレはエンジェルと一緒にいられるだけで満足し、それ以上のことは何も望まなかった。まったりとした時間が流れ、エンジェルの毛は再び輝きを取り戻し、元気になったように見えた。

みんなあなたのおかげよ、とほほ笑むエンジェルを見つめてオレは大満足だった。だが1か月後の朝、目覚めると隣にエンジェルの姿はなかった。慌ててとび起きると、エンジェルは倉庫街の庭をさまよっていた。だめよ、私の赤ちゃんをとらないで、ダメ、そのコを殺さないで。そう小さく叫ぶと、エンジェルはその場にふらふらと倒れた。エンジェルのココロの傷の深さを感じ、オレは暗い気持ちになった。(明日に続く)


 





長い文を読んでいただき ありがとうございます。
下の写真を押していただけると 励みになりますo(^▽^)o


人気ブログランキングへ

にほんブログ村