文化の日。
11月3日。

国立能楽堂に行って参りました。


ナゼか国立能楽堂に行くときは、ギリギリに着いてしまう私…。
長袖ババシャツと白いブラウスだけで向かったのですが、長袖ババシャツに、暖か機能がついていたせいで、汗だく…(汗)。
場内に入ったときには、お話の清水義也さんが切戸口からちょうど入られたところでした…(さらに汗)。

 

清水義也さんのお話も面白く、惹きつけられるような話術をお持ちだな~と思いました。
とてもわかりやすくて面白いし、1つ“泣く”という型をやってみたりもしました。

 

 

『楠露』(くすのつゆ)
楠と言えば、楠木正成か南方熊楠か楠田枝里子しか浮かびませんが(笑)、その楠木正成の櫻井の別れのお話。
なんかもう、揚幕が上がった時からずっと涙ジワジワ状態で観ていました。

 

メインは3人。
主役であるシテが、楠木正成の家臣である恩地満一。
そしてツレの、楠木正成。
子方の、楠木正行。
演じるのはそれぞれ、武田志房さん、武田文志さん、武田章志さん。
武田文志さん目線で言うと、お父さんと甥っ子さんと一緒に、中心を担う舞台。

 

武田文志さんが、最初に声を出す演者のですが、最初の一声を聞いて、ほっぺの裏側を噛みました。
ブワーっときましたね…涙が…。
流れないように耐えるために、噛みました…(笑)。

 

楠木正成、知ってるって言えるほど知ってはいませんが、こういう人で、こういうことがあったよね程度は知っています。
赤穂浪士にも負けない忠誠を、後醍醐天皇に尽くした武将。

 

櫻井の別れ。
簡単に言うと、後醍醐天皇と足利尊氏が戦って、兵力の差がすごいことになったときに(もちろん足利尊氏優勢)、戦場に行く途中の櫻井っていう場所で、息子の正行(まさつら)にお前は帰すから、生きて、いつか朝敵を討ってくれって、いろんな話を例えながら諭していくっていう…。
その息子を託したのが家臣の恩地満一。
楠木正成の言葉とそれを聞く正行の姿に、心を揺さぶられます。

 

武士の時代の当時、親子がどういう気持ちで戦っていたのかはわかりませんが、負けと決まったような戦に行くのに、息子には生き残ってほしい気持ちはあったでしょう。
でも、いろんな説はありますが、子供っちっていう設定(?)の息子をひとりで帰すわけにはいかない。
そこで息子と一緒に呼び寄せたのが恩地満一です。

 

息子はねぇ…離れたくないよね…お父さんと。
多分、父親の姿を見て、自分もこうなりたいって思ってたと思うし…。
まだまだ教えてほしいことがいっぱいあるって思ってたと思うし…。

息子には生きてほしい父も、本当は息子の成長を見届けたいだろうし、もう二度と会えないであろう状態で、悲しくないはずはありません。
そしてただ生きるだけじゃなく、朝敵を倒せと言っているわけです。
そして自分は、この戦で死ぬまで戦う決意をしてる…。
後醍醐天皇への忠誠のために…。

 

父と子の姿に心を揺さぶられた恩地満一が、正成と正行にお酒を注ぎます。
それと同時に、武田志房さんが、文志さん、章志さんに“お酒じゃない何か”も、注いでいるように見えました。

 

そして恩地満一と息子正行と別れる楠木正成。
見送るんですが、あれだけの思いで別れたのに、ふたりの後姿を、ちょっと追おうとするんですね…。
泣かないワケないやん…っていう…。

 

多分、楠木正成の心の中は、引き裂かれてます。
人間が生き返ることができるなら…自分が2人いたなら…って絶対思ってます。
恩地満一に、正行をくれぐれもよろしく頼む…って絶対思ってます。
息子にも、自分の気持ちをどうか受け継いでくれ…って絶対思ってます。
そして、朝敵を討てということは、長く生きろっていうことでもあるんだと思います。
それが、追おうとして立ち止まるときの、その立ち止まり方でわかるっていう…。

 

ナゼか、終わってからのほうが涙が出てきました。
なんか、人だけじゃないものが、舞台上にあった気がする…。
多分、舞台上の人たちの中から生まれたもの。
あとは…ホントに楠木正成、あそこにいたんじゃないかな…っていう…(笑)。

 

終わって、休憩が20分あって、お手洗いに行っておこうって思ったんですが、あまりにすごすぎて、すぐには立てなかったです…(笑)。

 

この楠露、もちろん歴史上の人物を演じているので、今はこの世にいない方々。
ですが、霊や精などではなく、生きている人間を演じているので、面はつけません。

だから演じるのが武田文志さんってわかるんですが、舞台を降りているときの武田さんと、どうしても同一人物と思えず…(笑)。
マツコロイドならぬ、タケダロイドなんじゃないか…?と思ったりもしましたが(笑)、アンドロイドの芝居で、あんな気持ちになれるのかな…???
もしかしたら、武田文志(ふみゆき)さんじゃなく、武田文志(ぶんし)さんとか、武田文志(ふみし)さんとか、いるのかもしれない…???
今度お会いする機会があったら訊いてみます(笑)。

 

なんかホント、人間の力ってものすごいんだなって、改めて思いました。
稽古の賜物と、持って生まれたものなんでしょうけど。

 

もし、足利尊氏より後醍醐天皇側が優勢で勝っていたら、室町幕府はできていなかったと思います。
…ということは、お能も、今のような形になっていなかった可能性も大なワケでして、改めていろいろ考えさせられました。

 

そして笛が、大好きな一噌隆之さん。

囃子方も、地謡方も、素晴らしかったです。

 

 

狂言
『千鳥』
これ目当ての方もいたんじゃないでしょうか(笑)。
野村萬斎さんの登場です。

もーね、わかってますわ、この方。
どうすれば人の心がどう動くか。
いろんな声、いろんな間、いろんな表情、いろんな動きで、楽しませてくれます。
で、もう何あの色気…(笑)。
結構な、いい席を取っていただいたので(武田文志さんに)、何回か目が合ったのですが、そのたびに心の中で「あ☆」「わ☆」ってなってました(笑)。

 

生まれ変わったら、嫁になる(笑)。

 

前に、萬斎さんの舞台に向けた稽古の様子を追ったドキュメントを観ました。
あれだけの気持ちと頭と身体と時間を使ってする稽古。
あれだけのいろんな思いで息子と立つ舞台。
あんなの観たんだもん、…抱きしめたいじゃん(笑)。

 

その舞台への、伝統への、責任と重圧、取り組む姿勢は、萬斎さんだけではないですが。

 

千鳥の内容は、敢えて書きません。
興味のある方は、調べてみてくださーい。

 

やっぱり、ふっと気持ちを軽くして楽しめる狂言は、お能の舞台に必要だなって思いました。

 

太郎冠者の萬斎さんだけじゃなくて、太郎冠者のご主人や、酒屋さんも面白くて、やっぱり相手あっての芝居(狂言)って思いました。

みなさん、演じるのが楽しそうでした。

 

 

仕舞

『賀茂』
武田祥照さん。
5人の方が仕舞を舞われまして、間違いなくいちばん若いと思われます。
若いんですが(若いから?)キリっとしたメリハリのある舞でした。
なんかこの方を見ていて、能楽師の方の(狂言師の方もですが)身体能力って、ハンパないんだろな…と思いました。
もしかしたら、アスリート並みかもです!
本当にこの先楽しみな若手、武田祥照さんです。

 


『歌占』
初めて知った歌占。
ムネリンと勝手に私の中で呼んでますが(笑)、武田宗典さんの登場。
顔に似合わない深い声を出されます。
で、動きがものすごく綺麗。
祥照さんから身体能力目線で見ていたのですが、ムネリンもハンパないです。
パッと見、すごく細見なんですが、いい筋肉がついてそうです。
ムネリンも能楽界を代表する能楽師になっていくだろうなぁ。

 

 

『井筒』
出ました!ワタクシが隠れファンになっている坂口貴信さん。
やっぱりカッコいい。
この方すきだわって改めて思いました。
動きに落ち着きがありました。
それゆえに物悲しさと、強さのようなものも感じました。
そして、声もステキ。
坂口さんがシテをされる舞台も、“はじめて能”みたいに途中で止めないやつで(笑)観たいです。

 

 

『蝉丸』
林宗一郎さんによる仕舞。
ちょっと激しさを感じる舞。
人間の衝動や、心の葛藤みたいなものや、強さを感じました。
この林宗一郎さんも、キリっとしてスッキリしたハンサムさんでした。
この方も、ものすごい身体能力をお持ちです。
何度か心の中で、「はぁー!」と感嘆のため息が(笑)。

 


『昭君』
これも初めて知った曲でした。
坂井音雅さんの仕舞。
力強さに圧倒されました。
ちょっと恐さみたいなものも感じてしまいました(笑)。
この方も、ハンサムさんでしたねー。
そして素晴らしい身体能力。
なんか、能楽師の方って、何者なんでしょう…(笑)?

 

 

この仕舞の地謡方に、最初にお話してくださった清水義也さんにちょっと似た方がいらしたのですが、ご本人でした(笑)。
切戸口から入ってこられたときに、思わずパンフを確認してしまいました(笑)。
これまた同一人物に見えず…(笑)。
終わった後、再度パンフで確認っていう(笑)。

 

 

『山姥』
1時間50分という大曲。
でも、そんなに長く感じなかったなぁ。

圧巻で、見応えがありました。


知ってるつもりになっていましたが、“つもり”と全然違いました…(汗)。
事前に、武田文志さんから、あらすじと解説をいただいていたのですが、山姥に関しては、知ったつもりだったんで目を通していませんでした(なんつーやつだ、私は…)。
オマケにギリギリに着いたもんで、入場時に、いただいていたものと同じあらすじと解説のプリントアウトしたものをいただいたのですが、ちゃんと読めず…。

 

よく、息子に山に置き去りにされた年老いた母親が山姥になったとか、角が生えて醜いせいで美しい女性を妬んでるとか(笑)、そういうのと勘違いしてました。
だから、予想外に静かな曲でした。
もちろん、静かなだけじゃないんですけど。

 

山姥の謡を謡って舞う、百萬山姥(ひゃくまやまんば)と呼ばれる歌手が、善光寺参りをしようと思って、お供と一緒に町を出るのですが、境川(部屋…ではない(笑))についたときに、その土地の人に、善光寺への行き方を尋ねます。
3つある道の中から、選ばれた道は、なんといちばん危険な道…。
その道を行くと、昼間なのに突然日が落ちて暗くなる(という設定の)中、女が「宿を貸します」と現れます。
その女が、自分の家に一行を連れてきて、百萬山姥に「山姥の謡を謡って舞ってください」と頼みます。
最初は謡って舞う気ゼロの百萬山姥でしたが「実は私が本当の山姥です。あなたは私をネタに謡を謡って舞って人気者になってるくせに、私のことを何も知らないし考えてくれない。どうか私(山姥)の謡を謡って舞って、輪廻の苦しみから救ってください」の言葉に、怖くなって謡おうとしたところで「夜になったら、山姥の姿でまた現れるから、そのときに一緒に謡って舞いましょう」と女は言い、すっと消えます。
…と同時にすぐ日の出。
本当の夜がきて、百萬山姥が謡い舞おうとしたときに、山姥がその本当の姿を現します!
山姥が背負う背景や、実は人間助けたりもしているのです的なことや、こうして山や谷を季節ごとに廻るのです的なことを言いながら、消えていく…。

 

私的には、山々を、谷を、歩き回る山姥に、強さとなんとなく悲しさを感じました。
囃子方も、太鼓が入ってちょっと激しくなって、厚みが増します。

地謡方も素晴らしくて、演者なんだな、と感じます。


面も独特の面でして、夜中にふっと目が覚めたときに、ぼぉーっと浮かび上がってたら失神か失禁しそうな感じなのですが(笑)、恐いものって、悲しみと優しさも一緒に背負ってるんだなって思いました。

 

人間…っていうか山姥ですが(笑)、山姥の業みたいなものや、強さと弱さ、恐さと悲しさ、そして全体になんとなく流れる優しさみたいなものを感じました。

 

山姥は、武田文志さんのお兄さんである武田友志さんが演じました。

 

武田兄弟、恐るべし…(笑)。

 

多分山姥は、誰も妬んでないし、誰も恨んでない。

時々、カッ!カッ!と顔を振って周りを力強く見るんですが、百萬山姥を見るときは、動きもゆっくりで、どこか優しさと悲しさを感じます。

 

私のことを謡うなら、ほんのちょっとでいい、本当の山姥である私のことを知ってほしい…ただただその思いだけだったんじゃないかと感じます。

 

きっと今も、どこかの山にひっそりといて、山登ラーたちを見守っているのかもしれません。
私も今後山登ラーに復活したときは、山の神様と、山姥に、手を合わせて、山に入ろうと思います。
…ってか、鬼って神様なんですよね。
山の神様が、山姥そのものなのかもしれません。


これも終わってからすぐ立てず…(笑)。


帰りは、このままじゃ普通の世界に戻れない…気がして(笑)、Sん宿までは歩きました(笑)。
まぁ、2駅分だけですが(笑)。
かなりぼーっとしてまして、ひとつ曲がり角ひとつ間違えたりしました(笑)。
まぁ、どっちにせよ知ってる道だったんで、迷い道くねくねにはなりませんでしたが(笑)。

 

最初のお話のときに、能楽師は型で演じるとおっしゃっていました。

芝居は、役の心、台本にない背景も考えて演じる役者が多いです。

あるとき、当時の某主宰、現在、俳優業や映画にもなった人気ドラマの脚本なんかも書いたりした脚本家でもあるヤツが言いました。

「こう動いたらこう見える…それで演じられるならそれがいちばんいいんだよ。でもそれができないなら、ちゃんと心とか背景とか考えて、台本読み込まないとダメだろ。」

能楽師の方たちは、型でちゃんと見せられるだけのものを持てるようになる稽古と、生まれ持ったものが備わっているのだと思います。

わかりやすいところで言えば、それを体現されているのが、野村萬斎さんじゃないでしょうか。

狂言師ですが、狂言でも、ドラマや映画でも、その演技力と存在感はすごいものがあります。

能楽師の方たちが出演されるドラマも見てみたいですが、人気出ちゃったら、お能のチケットも手に入りにくくなる…という葛藤が(笑)。

 

 

なんか、ものすごい文化の日でした。

 

会場では、武田文志さんの奥様ともお話できました!
いつも、顔を合わせるのを楽しみにしてくださっているのも感じて、とっても嬉しいです。
私が男でも、お嫁にしたいくらい可愛らしくて、とってもいい方。
この奥様に、この旦那様あり。
おふたりが一緒にいるのは、能楽師になる旅でしか見ていませんが、とってもお似合いです。


また、会いに行きますね。

 

 

 

 


そして、この日は、某ドラマーの命日でした。
お墓参りには2度しか行けていませんが、忘れません。
天国でも、あの笑顔でドラムを叩いているはずです。
同じ仲間だった、遠い街にいるKちゃんも元気かな。
なかなか会えないけど、近い将来、いろいろ語りながら、旨い酒でも、飲みましょうや。