ファルス・ヒューナル ――― 先ほどのダーカーボスより小柄だが、纏う瘴気は圧倒的に濃密だ。アークスでない一般市民ならば、攻撃を受けずとも近づいただけで体が朽ちていくだろう。

 

 

テルー「・・・戦いたいなら初めから出てきなさいよ。わざわざ長い道中で消耗させてからだなんて、卑怯だと思わないの?」

 

ファルス・ヒューナル「弱い者と戦っても興が乗らん、実力を試すついでに貴様の戦いぶりを見たかったというだけだ。強き者の戦いは見るだけで面白いのでな」

 

テルー「道中抜けるだけで、私疲れ切ってるんだけど。とてもあなたを興じさせられる自信はないわね」

 

ファルス・ヒューナル「謙遜を申すな。確かに”その貴様”では我の相手は務まらんだろうが・・・貴様、内に何を抑えている?」

 

テルー「・・・妄想は勝手だけど、」

 

ファルス・ヒューナル「まあ良い、見てみればわかる」

 

 

フッ

 

拳を振りかぶったヒューナルが瞬間移動のごとく​間合いを詰め、テルーへと襲い掛かる。

 

テルー「話聞きなさいよ、っ!」

 

 

ゴンッ!

 

 

衝突音を響かせ、テルーはガードごと吹き飛ばされる。

 

 

テルー「こんの馬鹿力・・・」

 

 

初撃で既にふらつきつつ、テルーはそれでも反撃に出る。

スナッチステップで助走をつけ、グレンテッセンの突進で後ろを―――取れない!

突進の速度がもどかしいほど遅い。もはやテルーの体は、ジャストアタックすらおぼつかないほど消耗しきっていた。

 

 

ファルス・ヒューナル「その体で我と渡り合おうなど・・・笑止!」

 

 

易々と間合いの外に逃れたヒューナルは、拳にエネルギーを充填、地面を殴りつける。

エネルギーは地面を走る波となり、突進するテルーにカウンターとして放たれる。

 

 

テルー「っ・・・間に合え!」

 

 

突進の勢いそのままに、テルーは斜め前方に身を投げ出し、どうにかショックウェーブを避け・・・いや、着ていたタクリディアローブ雪にかすり、右肩部分が大きく裂ける。

 

服を惜しむ間もなくテルーは膝立ちで後ろを振り返りヒューナルの姿を探すが、前後左右、どこを見渡してもヒューナルの姿はない。

 

 

テルー「・・・上か!」

 

ファルス・ヒューナル「まだ”その貴様”のままか?・・・愚鈍、と言う他ないな」

 

 

見上げた瞬間、ヒューナルが中空から昏い稲妻となって落下してくる!!

形こそFiのPA:シンフォニックドライブに近いが、威力は比較することもバカらしい。

 

 

ズドォンッ!!!

 

 

 

テルー「――――っ!!」

 

 

テルーがもはや反撃も何もなくテッセンの突進で遠くへ避難してから落下地点を振り返ると、

そこには半径5m、深さ1mほどのクレーターが出来ていた。

いかに重力も利用するとはいえ、もはや蹴りの威力ではない。体術1つ1つが即死級だ。

 

 

ファルス・ヒューナル「これがダークファルスだ。今の貴様では遊び相手にもならぬ」

 

テルー「だったら・・・さっさと開放して欲しいのだけど」

 

ファルス・ヒューナル「安心しろ、すぐ楽にしてやる」

 

テルー「いや違う、そうじゃない・・・」

 

 

戦闘狂に対するテルーの元気のない突っ込みの直後、最初のように拳が飛んでくる。

予測していたテルーはこれを前転でかわし後ろから反撃の居合を、振ることはできなかった。

 

 

ファルス・ヒューナル「もはや動きの真贋も見えぬか・・・弁えよ!!」

 

 

拳はフェイント。振り向きざまの後ろ蹴りがテルーの肩口に直撃する!!

 

 

ゲシッ!! 

ミリッ・・・メキ ゴキン!

 

 

叫び声も出せず、テルーは転がりながら右肩の骨が砕ける音を聴く。

 

 

テルー「ぅ、っあ゛・・・いっ、ふぁあょ」

 

 

最後は 「まだよ」、と言いたかったのか。言葉にならない声を上げテルーは立ち上がる。が、もはや武器も握れず、目もうつろ。戦闘できる状態でないことは誰の目にも明らかであった。

 

 

ファルス・ヒューナル「ここまでしても出さぬか・・・もう良い時間の無駄だ、消えよ」

 

 

興味なさげに言うが早いかヒューナルからショックウェーブが放たれ、テルーをあっけなく飲み込む。

 

 

ファルス・ヒューナル「久々に我の所までたどり着く者が現れたと思ったらとんだ期待外れであったな。さて次は、 ・・・?」

 

 

次はどいつを拉致してやろうか思案し始めていたヒューナルは言葉を切る。

 

 

ファルス・ヒューナル「やっと出したか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、ショックウェーブに飲み込まれたはずのテルーがこちらに向かって突進してくるのか、そして何故粉砕したはずの右肩が完治しているのか。様々疑問はあるが、自らの期待にようやっと応えたらしい好敵手に、ヒューナルは心躍らせる。

 

 

 

 

ファルス・ヒューナル「さあ始めるぞ、猛き闘争をな!!」

 

 

テルー「闘争にしたかったら頑張って抵抗しなさいよ?じゃないと虐殺しちゃうから♪」

 

 

先ほどまでの疲労の影すらないテルーは、普段以上に好戦的なセリフを吐いてヒューナルへと突っ込む。

 

 

 

 

 

 

ここで、少し昔話を1つ

 

彼女の種族はデューマンと呼ばれる、遺伝子操作によって誕生した種族だ。

が、アークス、遺伝子操作ときて何も起きていないはずはなく・・・。

 

中でも機密情報として伏せられているのが「胎児へのダーカー因子投与によるアークス強化計画」である。文字通り母親の胎内にいるときにダーカー因子を投与、胎児の段階からダーカーの攻撃力や装甲などを持たせることを目的とした。

結果、胎児には確かに身体能力の大幅な向上などが見られた。しかし、実験の対象となった母親は全員が出産と同時に死亡、ダーカー因子について一定の効果は認められたものの、あまりに非人道的であるとして計画は凍結、闇に葬られた。

 

ダーカー因子を持って生まれた者たちは、その血を薄めようと他のデューマンと交配を繰り返し、その子孫が現在のデューマンである。

 

しかし、血は薄まっても絶えることはない。角や肌に残滓として残っているし。

 

ごくまれに血が濃く出る者もいる。

テルーがその1人だ。母親が生まれてすぐ他界したのも、そういうことなのだろう。

 

テルーのダーカー因子は、驚異的な回復力、近接戦闘力を誇るブリュー・リンガーダ。普段は血を抑えているために人より多少傷の治りが早い程度だが、彼女本人の意識が希薄になった今、その血は重度の骨折をも即座に完治させてみせる。彼女の体内に蓄積されたダーカー因子が尽きるまでという限度はあるものの、彼女の窮地は皮肉にもダーカーによって救われ・・・

 

 

 

 

テルー「キィェエャァアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

鳥獣じみた叫び声を上げ、傷口から赤黒く変色した、紛れもなくダーカーなその姿を見て、救われたというのはいかがなものだろうか。

 

 

 

 

 

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あ と が き

 

やっぱりまた次回じゃないか(呆れ)

 

大丈夫です、私はハッピーエンドが好きなのでテルーさんはちゃんと元に戻ります!!