その二 気弱な魔女


「ごめんなさい。本当にごめんなさい」


もう何度目かもわからないけれど、少女はまた謝った。

何度目、というより何十回目といったほうが正確かもしれない。


おじさん達が宿屋を出てから約30分後。

おじさん、おばさん、レイラさん、それに他の町の人たちがずぶ濡れの状態で帰ってきた。

そして風邪を引いてはいけないので、現在お風呂に入っている。

俺達はおじさん達と一緒に宿屋にやってきた少女と、みんながあがってくるのを一緒に待っているんだけど……。


「本当にごめんなさい…」

「事情を知らなかったのですから、しかたありませんよ」


謝り続ける少女を、お兄さんがずっとなだめている。

どこからどう見ても「魔女」という姿をした少女だけは濡れていなくて、みんなを待つ間、俺達と同じテーブルを囲んで待つ事になった。

栗色のふわりとしたボブヘアに、大きな桃色の瞳。

胸元で両手をぎゅっと握り合わせ、眉は八の字。

気が弱いのが一目でわかる少女は、大きな瞳を潤ませ、視線をずっとテーブルに落としている。

発する声も小さくて、自己主張とか苦手そうだ。

というか、人見知りの小さな子供みたいにも見えてくる。

見た目からして同い年くらい。

今日はポッキー&プリッツの日

という事で、切り絵で遊んでみました



竜ノ休ミ処-ポッキーの日オート


今回使ったのは極細ポッキー

久しぶりにポッキー食べましたが、甘かったです

自分はやはり塩系が好みらしい

リニアの町からヤークティ共和国へと行く為の街道の入口で、少女は何やら作業をしていた。

黒服に黒の三角帽子。茶色い髪はふわふわしている。

外見の第一印象は「魔女」。

型にはまり過ぎていると言えるほど、少女は魔女と呼ぶに相応しい格好をしている。

そして豪雨の中だが、少女は全くと言っていいほど濡れていない。

よくよく見ると、雨は見えない壁にでもぶつかるかのように少女を避けている。

シャボン玉の中にいるかのように、少女は丸い結界に包まれていた。


「なにやってんだい、ムーリトちゃん」

「え?あ、ターキーさん」


地面にしゃがみ込んで作業をしていた少女に、町からやってきたのか、ずぶ濡れの青年が声をかけた。

ムーリトと呼ばれた少女はその場に立ちあがりターキーへと向き直る。


「雨が凄いので、水害が起きる前に町全体に軽く結界を張ろうかと思って……」

「へぇ~。そんな事が出来るのか」

「やってみないとわからないですけど…」


少しだけおどおどとした態度だが、少女ははっきりと答える。


「そっか、がんばってくれよな。じゃ」

「あ、はい。頑張ります」


軽く手を挙げて走り去るターキーを、ムーリトはお辞儀とともに見送る。

そしてすぐにしゃがみ込むと、結界を張るための作業を再開した。

「他人事(ひとごと)ではありませんよ」


お兄さんがお茶を一口啜(すす)ってから口を挟んだ。


「この豪雨の中では、グレスティには向かえませんよ。定期馬車は完全に止まっているようですから」

「え?そうなんですか?」

「はい。グレスティは晴れているようですが、リニアの町とその周辺が、今の状態のようです」

「うっそ…」



今も「ドドドドドド」なんて音が聞こえている。

こんなに激しい雨の中は、さすがに馬車でも走れない。

馬車って言うのは、人が乗る『客車』と客車を引く『馬』、馬を操る『御者』がいて、初めて動く。

視界が悪い雨の中じゃ、いくらプロの御者でも事故を起こさない保証はできない。

しかも、街道がぬかるんでいる場合もある。馬の制御だってかなり難しくなる。

だいたい、グレイス国は領地を塀で囲まないという、珍しい国なのだ。



魔物が生息しているこの『地の世界』では、ほとんどの国が領地を塀で囲み魔物の侵入を防いでいる。

領地を塀で囲っている場合、塀の中には街道なんてほとんどないし、建物だってたくさんある。

いざとなれば、いくらでも雨宿りができるのだ。

しかし、グレイス国は区間(この場合は町と町の間だ)の移動は街道を使う。

街道沿いには建物なんてない。

次の町へは、どうしても徒歩か馬車を使うしかないのだ。

しかもリニアの町とグレスティの間は、歩いて一日ほどかかる。

この豪雨の中を一日中歩くなんて、体力気力共に保ちそうにない。

つまり、雨がやむまでリニアの町から動けない、という事だ。

それはちょっと困る。

旅の目的は、グランシャリオ皇国にヤークティ共和国のタクト様直筆の親書を届ける事だ。

だらだらと行く訳にはいかない。


「最近、何か変わった事はありませんでしたか?」

「かわった事?」

「はい。雨が降り続いているのには、何かあるのではないかと考えられます」


お兄さんの言葉に、おじさんとおばさんの顔色が変わった。きっと何かあったんだ。お兄さんも察したみたいで、「何かあったのですね?」と再度尋ねた。

おじさんとおばさんは黙り込む。

窓の外が一瞬明るくなった。

すぐに轟音が響く。

雷だ。結構近いみたい。

おじさんとおばさんは、言おうか言わないか迷っているみたいだ。

また、外が光る。


ドォォォォォン


一際大きな音と、


「きゃぁぁぁぁぁ!」


誰かの悲鳴が重なった。

女性の声だ。でも、シャーナではない。

シャーナは神経が図太いから、こんな事で悲鳴を上げたりはしない。

おばさんでもない。失礼だとは思うけど、もっと若い声だ。


「びっくりした。何も今鳴らなくたっていいじゃないの」


俺達が驚いて声のした方――宿屋の入り口へ視線を向けると、全身ずぶ濡れの女性が立っていた。


外見年齢は22、3歳。胸までの長さの緑色の髪を二つに束ねている。濃い緑色のボレロに白のワンピース。どちらもぐっしょりと濡れていて、白いワンピースは下に着ている服(おそらくキャミソールだろう)がうっすらと透けている。

女性は額に張り付いている髪をかきあげ、おばさんが慌てて持ってきたタオルを受け取った。


「傘は差さなかったのかい?」

「傘なんて、すぐに飛ばされちゃったわ」


凄い量の雨水が、髪を伝って滴り落ちている。


「そんな事よりも、ターキー来てない?」

「いや、来てないよ」

「一体、どうしたんだい?レイラちゃん」


おじさんが女性――レイラさんの質問に首を振り、おばさんが逆に問う。


「あいつったら、『雨の原因を突き止める』って家を飛び出したらしいのよ」

「「なんだって!?」」


おじさんとおばさんが顔を見合わせた。


「まさか、洞窟に?」

「いくらなんでも、そりゃないと思うが…。でも、ターキーだからなぁ」

「だから探してるの」


なんだかよくわからないけど、大変な事態だって事だけは伝わってきた。

俺に何か手伝える事はないだろうか。


「そういう事なら手伝うよ」

「ごめんなさいね。私達、少し出てくるわ」


おばさんは俺達に告げると、おじさん、レイラさんと一緒に雨の中へと出て行ってしまった。


「なんだか大変な事になっているみたいだね」

「本当ね」


俺はシャーナと顔を見合わせる。

手伝いますっていうタイミングを逃しちゃった。