原子価結合法とLCAO-分子軌道法(4) | 化学の電子状態のブログ

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今回は、水素原子、ヘリウム原子、水素分子イオンの「時間に依存しない電子軌道の波動方程式」について復習します。

積分値は、8PRO積分表を引用すると、三角関数、指数関数、および対数関数が出てきません。


◎水素様原子

(水素原子Z=1、ヘリウムイオンZ=2、リチウム2価イオンZ=3)

波動方程式
化学の電子状態のブログ-4-1

電子1の座標は(x1,y1,z1)である。Ψは水素原子の電子軌道の波動関数、Eは水素原子の全電子エネルギーである。左辺の第1項は電子1の運動エネルギーの項であり、第2項は核Aの+Ze電荷の電場で-e電荷の電子1が受けるポテンシャルエネルギーの項である。力学的エネルギー保存の式に似た式であるが、me=9.1×10^-31Kgと非常に質量の軽い電子には重力加速度gによる位置エネルギーは無視され、+Ze電荷の核Aから-e電荷の電子1が受けるポテンシャルエネルギー項が入っている。この時間に依存しない波動方程式を解くと水素原子の電子軌道(2)で示した、水素様原子の電子軌道が得られる。今のところ、近似なしに波動方程式が解けるのは水素様原子だけであり厳密解とも言われる。μは換算質量(reduced mass)と呼ばれ、水素原子の重心を原点に固定した座標で解いているため導入されている。式はデカルト座標(Cartesian Coordinates, XYZ直交座標;Rectangular Coordinates)で表わしているが、この波動方程式を解くときは極(球)座標(Spherical Polar Coordinates)へ座標変換することが多い。

 

◎ヘリウム原子

(ヒドリドイオンZ=1、ヘリウム原子Z=2、リチウムイオンZ=3)

波動方程式
化学の電子状態のブログ-4-2

電子1の座標は(x1,y1,z1)、そして電子2の座標は(x2,y2,z2)である。Ψはヘリウム原子の電子軌道の波動関数、Eはヘリウム原子の全電子エネルギーである。左辺の第1項は電子1と電子2の運動エネルギーの項である。左辺の第2項はの核Aの+Ze電荷の電場で-e電荷の電子1と電子2が受けるポテンシャルエネルギーと、-e電荷同士の電子1と電子2の反発ポテンシャルエネルギーの項である。ヘリウム原子は電子が2個あるため、中心力場近似(Central force field approximation)を使い、換算質量μではなく電子の質量meを使う。この波動方程式も解くときは極座標へ座標変換することが多い。

※ 他方、HF法(ハートリーフォック法, Hartree and Fock method)‐SCF法(Self Consistent Field method, つじつまの合う場の方法)という呼ばれる解法もヘリウム原子に対して用いられる。ここの式とは異なる波動方程式を電子1と電子2に対して個々にたて、連立微分方程式を行列式で繰り返し計算で解きます。HF‐SCF法は繰り返し計算という性質上計算機にむいており、それゆえ大きな分子にも適応可能である。反面、2電子では最もシンプルなヘリウム原子には多少不向きな面もあります。また個々の微分方程式より得られるエネルギーの和は、ここで言う全電子エネルギーEとは一致しません。全く解き方およびアプローチが異なり混乱を避けるために、ここではHF‐SCF法についてはふれません。

 

◎水素分子イオン

波動方程式
化学の電子状態のブログ-4-3

電子1の座標は(x1,y1,z1)である。Ψは水素分子イオンの電子軌道の波動関数、Eは水素分子イオンの全電子エネルギーである。左辺の第1項は電子1の運動エネルギーの項であり、第2項は核Aの+e電荷および核Bの+e電荷の電場で-e電荷の電子1が受けるポテンシャルエネルギーと、核Aの+e電荷と核Bの+e電荷、プラス電荷同士の反発ポテンシャルエネルギーの項である。水素分子イオンは核A、核Bと核が2個あるため、ボーンオッペンハイマー近似(Born Oppenhimer approximation)を使い、核AとBの距離rABは定数として扱う。この波動方程式を解くときは双曲線関数を使った同焦点楕円球座標(hyperbolic Prolate Spheroidal Coordinates, or hyperbolic Confocal Elliptic Coordinates)へ座標変換する。

この水素分子イオンと次回から出てくる水素分子は、核Aと核Bという2核であるため電子とは別個に核同士の振動と回転という自由度もありますが、ここでは電子だけに着目し電子軌道だけの話をすすめていきます。