「生い立ちの歌」
『生い立ちの歌』
幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました
少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のやうでありました
十七-十八
私の上に降る雪は
霰(あられ)のやうに散りました
二十-二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思はれた
二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました
二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました・・・
私の上に降る雪は
花びらのやうに降ってきます
薪の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろ)む頃
私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました
私の上に降る雪は
熱い額に落ちもくる
涙のやうでありました
私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生きしたいと祈りました
私の上に降る雪は
いと貞潔でありました
「骨」
『骨』
ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破って、
しらじらと雨に洗はれ
ヌックと出た、骨の尖(さき)
それは光沢もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。
生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐ってゐたこともある、
みつばのおしたしを食つたこともある、
と思へばなんとも可笑しい。
ホラホラ、これが僕の骨―――
見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
霊魂はあとに残つて、
また骨の処にやつて来て、
見ているのかしら?
故郷の小川のへりに、
半ばは枯れた草に立つて
見ているのは、―――僕?
恰度(ちやうど)立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがつてゐる。