ミュージカル『もしかしたらハッピーエンディング』(어쩌면 해피엔딩) 

2017.10.23〜2017.11.12 DCFデミョン文化工場

 

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先日イェグリン・ミュージカル・アワード授賞式で『今年のミュージカル賞』『演出賞』『音楽賞』などを受賞した『もしかしたらハッピーエンディング』11月に3公演を観て来ました。 

 

結論からいうと、私のオールタイムベストミュージカル10本の指に入る作品になった。韓国作品らしい切ないストーリー、世界観のあたたかさ、音楽の素晴らしさ…どこから誉めていいのかわからないくらい。 主人公をロボットにすることで人間の一生を凝縮したような物語になっているこの作品。新しい世界を知る喜びだったり、誰かを愛したぶんだけ大きくなる悲しみだったり、テーマは何も珍しいものではないし、”愛を知るロボット”なんていうのも使い古された話だと思う。だけど枝葉の部分がていねいに描かれてることでキャラクターのすべてが愛しくなるし、普遍的なテーマをどこまでもやさしく、真っ直ぐに伝えようとしているところがすごく好き。また一つ、生涯リピートしたいと思えるミュージカルに出会えて嬉しい。 

 

どこをとっても好きなのですが、それ以前に感動したのが徹底した世界観の作り込みっぷり。すべてにおいて作り手の作品への愛が溢れていて、それが観る側の求めるものと合致しているのが心地いいなと思った。たとえばアートワークやグッズだったり、開幕前のナレーションだったり。舞台セットや照明も、400席の小劇場にしてはかなりお金がかかっている方なんじゃないかと思う。春頃におこなわれたコンサートも、会場が済州島で、森の中を表現したステージで…と徹底した世界観へのこだわりを感じる。

スクリプトブックの脚本家インタビューで「この作品は、私が聴きたい音楽と感じたい感情を詰め込んだ、私の利己心の塊だ」と語られていたのだけど、関わったすべての人がその思いに寄り添っているという気がした。それに、そんな作家の思いを最大限に表現できる土壌があるということがどれだけ貴重かっていうのは、色んなエンタメを観てきてよくわかってる。作り手と受け手の完全なる両想い感。それが感じられたことがすごく幸せだった!韓国ミュージカル、やっぱすごいなって改めて思った。(毎月のように改めて思ってるけど)

 

ということで、まずは簡単な作品紹介とあらすじ。

 

 ■ 3週間限定のアンコール公演

初演は2016年12月から2017年3月にかけて。(トライアウトは2015年におこなわれていたようです)初演の評判がものすごく高かったので再演を待ち望んでいたら、今回アンコールという形で3週間だけ帰ってきてくれました。OSTを聴いただけですでに音楽や世界観を好きになってしまっていたのと、スリルミーで好きになったチョン・ウクジンさんが観たいという理由で、このために渡韓を追加。ベンハーマッコン週に続いて2週連続で飛ぶことに。とても期間が短いうえ、平日公演も含めチケットは即完売。観られなかった方も多いので、なるべく早く正式な再演があることを願う! 

 

■ 日本公演、NYでのリーディングも

この作品、今年の春には韓国アイドルを主演に据えた韓国語での日本公演があり(※韓国版とは異なる演出で、日本公演版タイトルは『メイビー、ハッピーエンド』)日本語字幕付きでテレビ放送もされたため、完璧な予習材料があるのがめっちゃ嬉しい。しかもグッズとしてスクリプトブックが売られているので、きっちり韓国語で台詞を入れてから臨むことができた。このスクリプトブック、トライアウトで削除されたシーンまで載せてくれている充実ぶりで最高。脚本を読み込めば読み込むほど好きになっていったので、演出とキャストの演技だけに集中できるとこまで準備できたのが本当にありがたかった。 

さらにNYでの上演も目指していて、すでに昨年中に2回リーディングもおこなっているそう。(作曲家&脚本家インタビューより)近いうちにオフブロードウェイでの上演が叶うといいな。世界に発見されて欲しい作品。 

 

 

■ あらすじ

舞台は近未来の”ソウルメトロポリタン”。ここは人間に酷似した姿のロボット”ヘルパーボット”が人間の暮らしを助けている世界。ヘルパーボットは高度な知能と複雑な感情を持っており、性能が落ちても廃棄処分することを躊躇う人間が多い。そのため、古くなった個体はオンボロアパートで寿命が尽きるまでの時間を過ごしている。

 

主人公は、そのアパートに一人で暮らす旧型ヘルパーボットのオリバー。かつての雇い主ジェームスの影響でジャズを愛しており、アナログレコードが宝物。ルーティーンから外れることや、他人と関わることが苦手で、友達は植木鉢の植物だけ。真夜中以外は決して自分の部屋から出ない。 そんなオリバーのところに向かいの部屋に住むクレアが訪ねて来る。クレアもまた旧型ロボットだが、オリバーとは違い外向的な性格。「充電器が壊れた」というクレアの登場に戸惑うオリバー。自分よりも型の新しいクレアに初めは反発するが、充電器を貸し借りする仲になり、2人は少しずつ歩み寄っていく。

 

ある日、クレアはオリバーがこっそりとお金を貯め(ロボットがお金を稼ぐことは禁じられている)かつての雇い主に会うために済州島へ行こうとしていることを知る。済州島で蛍を見ることが夢だったクレアは、”お金が貯まるのを待っていたら自分たちは完全に故障してしまう”と、今すぐに済州島へ行くことを提案する——。 

 

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◆ 10月29日 夜公演 

オリバー…キム・ジェボム 

クレア…チェ・スジン 

ジェームズ…ソン・ジョンワン 

 

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◆ 11月4日 昼公演/夜公演 

オリバー…チョン・ウクジン 

クレア…チェ・スジン 

ジェームズ…コ・フンジョン 

 

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■ ネタバレあらすじ&感想 

 

◇ 僕たちはなぜ愛し合ったんだろう 

冒頭は、眠るオリバーのバックで流れるレコードという設定で、ジェームズ役の俳優(マルチに何役もこなすポジション)がこの曲を歌う。 

 

僕たちは 僕たちはなぜ 愛し合ったんだろう 

僕たちはなぜ そのまますれ違うことなく お互いを見つめたんだろう 

僕たちはなぜ 終わりが見えている その道を 一緒に歩き始めたんだろう 

 

まさにこのタイトルがそのまま作品のメインテーマになってるわけだけど、冒頭ではただ耳に心地よくて懐かしい感じのBGMっていう印象。これが作品の中でもう一度出てくる時に、感じ方が変わるのが感動的。オリバーがジャズ雑誌を読み上げるシーンで「デューク・エリントンの即興演奏は、同じメロディを繰り返しながらも、その下のハーモニーは絶えず変奏する。」という台詞が出て来るんですが、ミュージカルの良さのひとつってまさにこれだと思うし、それが活かされていることがこの作品の素晴らしいところだと思う。 

 

「あーよく寝た」と動き出すオリバー。部屋のセットはアンティークな家具やレコードプレイヤーや植木鉢などクラシックな雰囲気なのですが、オリバーが動くと2秒で「ロボットだ」とわかる。俳優の機械的な関節の動きと部屋のセットのミスマッチに、なんかものすごくわくわくする。ヘルパーボットの動きは、いわゆるロボットダンスみたいな堅さではないけど、たとえば振り向く時に普通の人間ならば首から先に回るところを首と腰を一緒に回すなどで絶妙な人工物感を出していた。クラシックなセットに加え、衣装も特に近未来的なものではないので、彼らがロボットであることを表すのは俳優の動きのみ。感情表現だけではなく、細かな動きからも演技力を感じられる。今回観られなかったけど、動画で観たミドクレアの動きが特にすごかったので、次はぜひ観たい! 

 

 

◇ 僕の部屋の中に − オリバー 

天気予報の「外出するのにぴったりの日になります」という言葉を遮るように、元気いっぱいに「ここから窓の外を眺めるのにぴったりの日になります!」というオリバー。毎月郵便屋さんが届けてくれるレコードとジャズ雑誌を楽しみにして、植木鉢と会話して、窓から入る日差しを幸せそうに浴びて、ずっと部屋の中で過ごすオリバーの満ち足りた日々が表現される曲。同じような一日を重ねて、季節が変わって、月日が経って…。照明や映像も使い、この1曲で月日の流れからオリバーの性格・趣向・生活、経年劣化という問題を抱えていることまですべて説明してみせるのがすごい。 

 

郵便屋さんも年を取り、毎月届けてくれた交換用の部品も生産がストップ。いよいよ寿命が近付いてきたことを知るけれど、オリバーの明るさは変わらない。元雇い主であるジェームズに必ずまた会えると信じているから、その日にまた一日近付いた今日が素晴らしいのだというオリバー。子供のような純粋さに、このあたりで既に泣ける。 そして突然のクレアの訪問にびびりまくるオリバーがかわいい。極度のコミュ症で、充電が切れて止まってしまったクレアに触るのもおそるおそる。見捨てようとするけど、植木鉢に咎められて(※と勝手にオリバーが感じてるだけ)クレアを助けることに。植木鉢をぺちっと叩くウッチンオリバーがかわいかった。オリバーは誰かを助けるために作られた存在だから、自分が水をやらないと生きていけない植木鉢はジェームズ代わりなんですよね。 

 

そしてオリバーは自分より型の新しいクレアにライバル心むき出し。顔を隠してヘルパーボット5がヘルパーボット6よりも如何に優れているかを早口でまくしたてるコミュ症ぶり。 

 

 

◇ 最後まで最後じゃない - クレア 

ひとまずオリバーに助けられて充電できたけど、感じの悪いオリバーに怒って出て行くクレア。とはいえ、経年劣化による充電器の故障を直してくれる仲間も見つからず途方に暮れる。それでも後ろ向きになることはなく、クレアには寿命の終わりをただ受け入れる心づもりがあるよう。 

 

本当に最後の瞬間

その瞬間が訪れたら 静かに目を閉じるだろう 

その時まで私にできることは 

ただ1分1秒 毎瞬間を 私らしく生きていくこと 

 

面と向かって話せないコミュ症オリバーは糸電話を使ってなんとかコミュニケーションを取り、毎日決まった時間にクレアがオリバーの部屋を訪れ、充電器を貸し出すという取り決めを交わす。最初はクレアが来る時間がちょっとずれただけでものすごい動揺してたオリバーだけど、日を追うにつれて会話が増えていく…というのをテンポよく表現していくところもとても好き。1週間経つころには完全にクレアの訪問を楽しみにしちゃってるオリバーがかわいい!ひっくり返って驚いたり、うひゃひゃと飛び跳ねたり、子供みたいなウッチンオリバーがひたすらかわいくて一瞬も目が離せない。 

 

充電器を直したクレアの友人が、クレアと同じヘルパーボット6であることにコンプレックスを抱くオリバー。最初は「これだから5は」「何あの6」とか言い合ってた属性の異なる2人が、ちょっとずつ距離を縮めていくのが微笑ましい! 

 

 

◇ ありがとう、オリバー - オリバー、ジェームズ

お金を貯めて「いつか迎えに来る」と言い残して出て行ったジェームズに会いに行くのだというオリバー。クレアが「昔の雇い主?」と言うと、オリバーは”友達”だと主張する。オリバーがジェームズとの日々を回想するこの場面、劇中でも特に好きな場面のひとつ…!「僕が何かを言えば、それを見て微笑んでくれるのがうれしい」というオリバーをあたたかく見つめるジェームズ。 

 

 

世界のすべてが変わっても お前はずっと変わらずにいるだろう

そう 今のように私のために こんなふうに 

私のそばに ともに 留まっていてくれ

 

ジェームズは性能のよいオーディオよりも「これが一番音が良い」と言ってレコードプレイヤーを大切にしていた人物。一緒にジャズを楽しみながら、平凡な日々を幸せに暮らしたオリバーにあたたかい視線を投げ掛けて「変わらないで」と言うのが切ない。日々技術が向上して、もとあったものがマイナーチェンジして…というテクノロジー進化の波の中で生まれたヘルパーボット。型が古くなったものは捨てられる世の中。ジェームズはそんな流れの早い世の中に少し疲れていたのかな。近未来が舞台になってるからこそ、ずっと変わらないものへの愛しさが浮き彫りになるんだろうと思う。 

 

このシーン、観る側としては、クレアの視点に立ってオリバーの回想を聞いているわけなので、この時点ではジェームズの本心はわからないまま…というのも後の展開のためのミソかなと。

 

 

◇ 幸運を祈って - オリバー、クレア 

オリバーから済州島の話が出たことで、クレアは蛍の話を思い出し、「蛍を見にいきたい」と衝動的に済州島への旅行計画を提案。クレアが蛍の話をする時にインターネットの電波を拾おうとする変な動きが、ジェボムオリバーもウッチンオリバーもそれぞれに奇妙で!かわいい!クレアがSixであることにコンプレックスを感じるがゆえに、つい知ったかぶりをしてしまうプライドの高さもオリバーってキャラクターの魅力のうちなんだよね。

 

オリバーには携帯用充電器があり、クレアには運転技術と行動力がある。完全に利害が一致した2人。新しい世界に飛び出すために足りなかったものをお互いが持っていたようで、オリバーはクレアの影響を受けてどんどん変わっていく。「もし故障したら」「もし事故にあったら」と心配して、計画通りにものごとが進まないことにストレスを感じていたオリバーが「すべてが計画通りにいかないかもしれないけど、とりあえず出発してしまえばなんとかなるかも!」なんて言えるようになるのが嬉しい。

 

 

◇ Goodbye, My Room - オリバー、クレア 

オリバーは、自分の人生のすべてだった部屋に別れを告げる。ここも特に好きなシーンの一つ。出発に向けてはしゃいでいたオリバーの顔がふっと寂しそうになる瞬間にぐっと来る。新しく踏み出そうとする時に、こんなふうに一人で孤独だった過去の時間に感謝する2人がすごくいいなぁと思う。 

 

 

◇ My Favorite Love Story - オリバー、クレア

済州島に向けて車に乗って出発した2人。ロボットの遠出は法律で禁止されているため、何かあった時に人間を装うための打ち合わせをする。恋人同士の記念日旅行という設定にすることにした2人が、出会いのシーンを細かに妄想するめっちゃかわいい曲。オリバーが特にロマンチストで、「雨のニューヨークで、君は赤いレインコートで…」って妄想に突っ走るのがめっちゃかわいい。 

 

 

誰かを愛したことがあるのかというクレアの質問に、友達ジェームズと愛し合ったと答えるオリバー。愛は多くの問題を引き起こすため、ロボットには自発的に愛するプログラムが搭載されていないという。クレアは誰も愛したことがないと言い、昔の主人についてはあまり思い出したくなさそうなそぶりを見せる。

 

 

◇ 思ったより、思ったほど - クレア 

フロントでのオリバーの頓珍漢な受け答えがありつつも、なんとかモーテルに入室した2人。なかなか言葉遣いのニュアンスまで汲み取りにくいのが残念なんだけど、オリバーはかなり古風な喋り方をするロボットで、しかも引きこもりで世間知らず。人間を装うために無理矢理いまどきな喋り方を練習するんだけど、はりきりすぎて暴走しまくってて、クレアは呆れ返ったり慌てて諌めたりしてて大変そう。 モーテルの中でも『ターミネーター2』に大興奮してモノマネしたり、フロント係が寂しそうだから手紙を書くと言い出したり、自由奔放なオリバーがひたすらかわいい。そんなオリバーを見て「誰かと一緒にいることって意外といいかも」と思い始めるクレア。 

 

 

手紙を渡されたフロント係、フンジョンさんはにこにこと手を振ってたんだけど、ジョンワンさんは手紙を読んで「ええ!?」って驚いた顔してた。一体何を書いた、オリバー…。 

 

 

◇ 人間たちから学んだこと - クレア

ドライブを楽しんで、とうとう済州島に到着。トランぺッターの彫刻を目印に、オリバーはすぐジェームズの住む家を発見する。ジェームズが生きている可能性が高くはないことを理解していて、もし亡くなっていたらその家族のために働くのだというオリバー。家の中へ入ろうとするオリバーを「ジェームズはあなたを捨てた。そこへ行けばきっと傷つく。」と引き止めるクレア。クレアは昔の雇い主だった夫婦の別れがトラウマになって、愛を信じられないようになったことを語る。 

 

永遠の心なんてものはない 彼女は私を見て泣いた

世界のどんな愛も 季節のように終わりが来る 

結局すべてのものは変わってゆく 

 

家から出て来たオリバーは、ジェームズが既に亡くなっており、その家族にも新しいヘルパーボットがいるため自分は必要ないと言われたと肩を落としている。自分に遺されたのはこれだけだと取り出したレコードに、クレアは驚く。ヘルパーボットに形見を遺した人間など聞いたことがない、ジェームズは本当にあなたの友達だった、自分が間違っていたと言うクレア。 

 

オリバーがそっとレコードを取り出すと『僕たちはなぜ愛し合ったんだろう』が流れる。ジェームズ役が実際に舞台上でピアノでこの曲を演奏し、オリバーがレコードをしまうと同時に去って行く…というこの演出が泣かせる。こういう表現を観られるからこそ、私は舞台が好きなんだ!と叫びたくなる、美しいシーン。下手端で観た回だけ、ジェームズに近付いた時のオリバーの顔が見えたんだけど、本当に幸せそうに音楽を感じながらジェームズに手を伸ばし、肩に触れる直前で手を下ろしてた。レコードから流れる曲を通して、もう会えない友達の心を受け取ったオリバー。ジェームズがどうしてあの部屋を去ったのか、どうしてオリバーを迎えに行かなかったのかといった事情はまったく描かれないけれど、ジェームズはオリバーを大切に思っていたからこそ「終わりが見えている道」を一緒に行くことがつらかったんじゃないかと想像した。 

 

 

◇ 蛍へ - オリバー、クレア 

次はクレアの目的である蛍を探しに行く2人。車でやってきたけど、蛍のいる森の奥へ行くには自分たちの足で歩いていくしかない。時にはオリバーがクレアの手を取り、時にはクレアが先導して進んでいく2人。ここまでで既に涙腺は崩壊してるけど、このシーンもすごく好きで、泣いてしまう。何気ないけど、誰かと一緒に生きていくってことが表現されてる場面だって気がする。FiveとSix、型は違うけどお互いの特性を認めて、対等に助け合いながら一緒に未知の世界にむかって進んでいく2人が美しい。その先に待ってた蛍の光でいっぱいの景色もすっごくきれい。テクノロジーが進化した世界でも、求めるものを見つけるには自分の身体で一歩ずつ進まなきゃいけない。変わらないものの美しさ、限りある命の美しさを讃えるこの作品を象徴するシーンだと思う。 

 

飛んでいかないで 私のそばから 

逃げないで 私の胸から 

キラキラ輝く君 そんな君が好き 

私と一緒にいてほしい お願い 

 

 

◇ 愛とは/First Time in Love - オリバー、クレア 

とうとうお互いに恋心を意識し始めるオリバーとクレア。両方の目的を果たし、ソウルメトロポリタンのアパートに戻って来るが、それぞれの部屋でお互いへの想いを募らせていく。いてもたってもいられず部屋を飛び出し「恋をしないという約束を破ってしまった」と告白する2人。ようやく愛がどういうものかわかったと、喜びに浸る。 

 

 

知っていたすべてのものの 意味が変わったような気分だ 

一度も見たことなかった こんな僕 

慣れないけれど嫌じゃない 

計り知れない 今 僕が感じる震え これが愛なんだね 

 

 

◇ それにも関わらず - オリバー、クレア 

飽きるまでくっついてたり、オリバーが好きなレコードを紹介したりと、始まったばかりの甘い期間を楽しむ2人だけど、クレアの抱える不具合はひどくなるばかり。クレアは自分の寿命があと約1年だと話す。対して、より耐久性に優れているオリバーはあと3年。改めて一緒に過ごせる時間の短さを確認し、恋に落ちない方が良かったと吐露するクレア。オリバーはそれでもクレアを愛していく決意をする。 

 

 

君と僕 握った手がどんどん古くなって 

時間と共にすべてが終わっていくとしても 

それにも関わらず 愛するよ その時まで 

もし君が望むなら全部やめるから 

 

それでも寿命は目に見えて近くなってきて、隠れて涙を流すオリバーを見ていられなくなってしまったクレアは、オリバーに「もうやめよう」と告げる。 

 

 

◇ 僕の部屋の中に+Goodbye, My Room リプライズ - オリバー、クレア 

それぞれの部屋で、お互いのことが頭から離れず苦しむ2人。ここで冒頭のオリバーのナンバーがリプライズされるのが切ない。同じ部屋の中なのに、クレアとの出会いを経て完全に変わってしまったオリバー。2人は記憶を消す決意を固める。それまで明るい表情だったのに植木鉢に「さぁ始め」と言う瞬間のジェボムオリバーの涙声に泣く。 

 

 

◇ それだけは覚えてていい - オリバー、クレア 

少し時間が遡り、クレアが記憶を消すことを提案する場面。メモリを出会う前の状態にすれば、お互いに幸せだった頃、自分の部屋だけが世界のすべてだと思っていた時に戻れるということにオリバーも同意する。 

 

糸電話を使う方法 

古いレコード プツプツとあたたかい音 

それは覚えてていい それは忘れていないようにして

 

「僕のドアをノックしてくれてありがとう。」 

「ドアを開けてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」 

 

ヘルパーボットFiveには相手に「ありがとう」と言われたら自動的に「どういたしまして」というプログラムが入っていて、オリバーはそれでクレアにからかわれたりするんだけど、この別れのシーンで出る泣き笑いのような「どういたしまして」は、そんな楽しそうだった時期が一気に蘇ってすごく切なくなる。 2人はメモリの消去の準備に入る。ここ、黄色い光がたくさん集まっていって2人が蛍みたいに自ら発光してるように見せる照明演出が好き…! 

 

 

◇ 僕たちはなぜ愛し合ったんだろう/ Finale:愛とは、もしかしたら

「あーよく寝た」と冒頭と同じように目覚めて植木鉢に話しかけるオリバー。元の日常を過ごすオリバーの部屋のドアを、やはり充電器が故障したというクレアがやってきてノックする。クレアの姿を確認して、植木鉢に「喋っちゃだめだよ」と囁くオリバー。オリバーは記憶を消去していなかったのだ。充電器を貸してあげようとクレアを招き入れ、わざとらしく「Sixじゃないか」といい、オリバーは以前クレアのために作ったSix用のアダプタを取り出す。 

 

「これでできるかな?できた。」

 「大丈夫かしら?」

 「もしかしたら。(어쩌면요.)」 

 

このラスト、オリバーが記憶を消していなかったことは明らかなのだけど、クレアの記憶があるのかどうかについては曖昧にされてる。人によっても印象が変わるようだけど、私が観た3度とも、スジンクレアには記憶が残っていて、わざと忘れたふりをして部屋を訪れたのだと感じた。クレアは完璧に忘れた演技をしていて、記憶がないはずのオリバーともう一度関係性を結ぼうとしたんじゃないかと。オリバーがアダプタを取り出したことに驚いた様子を見せ、嬉しいような泣き出しそうな穏やかな表情で暗転。 

 

『もしかしたらハッピーエンディング』というタイトルは、観客が「クレアの記憶が残っているのでは?」と思えるようなこのラストにかかっているのだと思ってる。そのため、記憶があるのかどうかを確信させることはなく、「もしかしたら」を感じられるような曖昧な演技になっているんだろうと思う。私が記憶があるように感じたのも、そうであってほしいという思いが反映されたからだろうし、実際どうだったのかというのはあまり重要ではないんだと私は思ってる。これからの2人を思うと切なくもなるけど、大きな余韻を残すとても素敵なラスト。この絶妙に想像の余地を残す部分を含め、何もかもが好きな作品だった。 

 

キャストも素晴らしかった。ジェボムオリバーもウッチンオリバーも子供のような純粋さがあって、やさしくてあたたかい歌声も大好きだし、2人とも本当に良かった。私はやっぱりウッチンの表情の豊かさがとても好き。つくづく目の離せない俳優だと思う。コミュ症なおたくぶりが板についてて最高だった。そしてスジンクレアもかわいかった。再演されたら、次こそはミドさんのクレアも観たい。 

 

上であげた作曲家&脚本家インタビューで、作品を作り上げる過程での俳優との関わり方を語られていたところが印象的だったので引用する。 

 

——俳優がストーリーとその色について理解するまではたくさん話し合う。俳優が作品についてよく理解し、スイッチが入る瞬間が来たら、それ以降はたとえ解釈が自分と異なっても何も言わない。「その台詞はそんな感じじゃなく、こう表現して」と創作者が言ってはいけない。その瞬間から俳優たちは自分で表現することを恐れ始めるから。(※ざっくり抜粋) 

 

こういう信頼関係の中で舞台を作れるのって理想だなぁと思った。だからこそ俳優によってディテールが変わっても芯にあるメッセージはぶれずにいられるんだろう。きっと役を預けられる俳優を選ぶまでにしっかり時間をかけているんでしょうね。演出家は別にいるけど、キャスティングにも脚本家が関わっているようだし、脚本家が毎日稽古に参加するっていう話もとても意外だった。

 

とにかく丁寧に、とことんこだわりを持って作られたことが感じられる作品。他にも好きな作品はたくさんあるけど、ここまで万人に薦めたいと思う韓国創作ミュージカルは他にないので、再演は長くやっていただければいいなと思う。そしてぜひNYでの公演も叶えてほしい!

 

最後に、カーテンコールで撮った写真を載せておきます。いっぱい撮ったつもりだったんだけど、全然良いカメラではないのでほぼ残念クオリティでかなしみ。

 

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↑韓国小劇場おなじみのマニアカード。スタンプかわいい。