ローズヴェルト、スターリン、チャーチルを暗殺せよ(河出書房新社)
 
 第二次世界大戦物(ノンフィクション)は出尽くした感、読みつくした感があった。白水社、中央公論新社、作品社に優れた著作が多かった。
 今回は、ショッキングな題名以外にも、久々に第二次世界大戦のノンフィクションが出たということで、思わず読み始めた。
 老舗の河出書房新社発行だが、白水社や中央公論新社の出版物のような重厚さはない。
 共著だが、一人がテレビ番組の制作者ということもあるだろう。
 最初は、ノンフィクションなのかフィクションなのか確認してしまった。
 
 結論的にはノンフィクションであり、わずかな資料を基に、表題の暗殺作戦を追ったものである。結論は歴史のとおりで、作戦は失敗するのであるが、これこそネタバレ厳禁。何があったかは読んでのお楽しみである。
 ただし、現実は小説よりも凡庸である。チャーチル首相暗殺を描いたフィクションの「鷲は舞い降りた」は小説は良くできており、映画は評価が分かれたがマイケル・ケインのカッコよさで私の好きな作品であるが、今回の内容はサスペンス巨編というわけにはいかない。
 だが、そもそも知られていない作戦だったので、「ふ~ん」という新鮮味があると共に、第二次世界大戦では、現代と異なって出番の少ない中東で、枢軸国と連合国の立ち位置がわかるのも興味深い。舞台は、今はアメリカの宿敵、イスラエルとハマスの戦闘で存在感が再び注目されるイランの首都テヘランであるのも新鮮である。
 
 やむをえないのだが、資料がとても少ないのだろう。内容が暗殺作戦だけでは一定のボリュームを確保できず、第二次世界大戦の簡易通史的な既述や、テヘラン会談までの三巨頭(特にローズベルト大統領)の動きが主になっている。
 ここは、第二次世界大戦に詳しい者は復習のつもりで読むしかない(暗殺作戦の話と目まぐるしく入れ替わるのでまとめて読み飛ばすことは難しい)
 
 逆に、第二次世界大戦に通じている者には、登場人物に有名な者が作戦に関与しているので、面白く思えるところもある。筆者自身が認めているのだが、真偽の程(関与の程度)は詳細不明なのだが。
 
 読後から思い出すのは、韓国の戦争映画「マイウエイ」だった。ナチスのフリッツヘルメットをかぶった東洋人の写真。その1枚の写真から紡ぎだされるストーリーで、これはほぼ完全なフィクションだったが、今回の書籍も、限られた資料や、過去のわずかな経緯から推測して構築されているが、ノンフィクションとして、派手さに欠けるものの、歴史の知られざるストーリーを味わわせてくれた。