1977年と47年も昔の映画。原作は「羊たちの沈黙」のトマス・ハリス

 少年の頃にテレビで観た記憶があるが、日本では当時は反イスラエルで結束していた中東諸国からの上映中止要請や脅迫状事件もあって公開上映されていない。

 今、なぜ、このマイナーな旧い映画を動画配信でやっているかは、配信企業が目ざとく、世界の注目を集めるパレスチナ・ガザ地区でのイスラエルのハマス掃討(既にイスラエルによる一方的な大虐殺と化しているが)に着目したに相違ない。

 また、ポスターにあるとおり、飛行船=空からの大規模テロ攻撃が9・11の予言的な作品とか一部で評価が見直されていることもあろう。

 

 舞台はアメリカだが、主人公はイスラエルの情報機関(モサド)のベテラン工作員(ロバート・ショー)である。CIAの工作員は脇役でスキルも低い設定がひねっていてよい。

 古い映画なのだがネタバレは控える。実在した「黒い9月」というパレスチナ解放戦線の過激派組織のテロ計画とモサドとの闘いを描いている。

 現実もそうなのだが、モサドは黒い9月のメンバーの多くを「暗殺」しているのだが、この映画でも、工作員が黒い九月の拠点を襲撃して暗殺するシーンから始まる。

 自分はロバート・ショーが大好きで、「007ロシアより愛をこめて」のソ連の鍛え抜かれた暗殺者役や「バルジ大作戦」での狂信的な戦車隊長(大佐)役でハマってしまった。

「ブレードランナー」のレプリカント・リーダー役だったルドガー・ハウアーにも似ている気がする。もちろんルドガー・ハウアーも好き。

 だが、この映画ではロバート・ショーは恰好良いとはいいがたい。役柄の立ち位置は引退が近い中年の工作員だし、見た目も長めのボサボサ髪で身体も締まりがないような感じ。お決まりにラストでは大活躍するのだが、やはりイメージのクールな感じがない。

 

 監督はジョン・フランケンハイマーだから、お決まりのスケールの大きなパニック映画と思いきや、前半は結構しぶくて、黒い9月とモサド(+CIA)の攻防をスパイ映画よろしく緊張感たっぷりに描く。黒い9月のメンバーも遠慮なく周囲を巻き込み、人がたくさん撃たれる映画である。特にマルト・ケラー演じる黒い9月の女性メンバーの、冷酷さと感情の起伏の激しさの同居した演技が美しいが個性的な顔立ちと相まって印象的。

 

 終盤は、既に書いたようにパニック映画的になってしまい、内容的には荒唐無稽かつご都合主義的な展開になっている。だが、安易に批評することは避けよう。この荒唐無稽かつ奇想天外(当時?)な終盤のスペクタクルがないと、この映画のポスターにあるような、娯楽超大作としての意味がない。

 ただし、終わり方はあっけない。これは観てのお楽しみ。観て損はない佳作だと思う。