公開日: 2022/10/11

タイトル: Vuvuzela
ポッドキャスト: 99% Invisible
記事/原稿URL: 

https://99percentinvisible.org/episode/vuvuzela/


概要:

2010年アフリカ大陸で初めてFIFAワールドカップが開かれた。開催国となった南アフリカ共和国にとって、暗い歴史から脱却する重要な大会だった。アパルトヘイトにより長い間国際大会への参加を禁じられていたため、世界中のファンはこの大会で初めてこの国のサッカーの特徴的な一面を知ることとなった。ブブゼラである。この楽器はワールドカップ開催までサッカーファンの間でもあまり知られていなかったが、南アフリカでは定番の応援グッズだった。

 

南アフリカでのサッカーの歴史は長く、1862年には既にケープタウンでの試合の記録が残っている。イギリスでフットボール・アソシエーションが発足しルールが定められる1年前のことだ。イギリスの入植者によりもたらされたスポーツだが、差別を受けていた黒色人種やその他の有色人種の労働階級に受け入れられた。

 

サッカーはクリケットやラグビーと違い格下のスポーツとみなされていたため公的支援がなく、各チームが資金集めやロジスティクス等様々な支援を行うサポーターズクラブを設立した。これらのクラブは、人種隔離政策下の人々に自分たちのコミュニティを作る機会を与えた。選挙によりクラブ内の重要な役職に任命されることは名誉なことであった。1960年代には南アフリカ各地にサポーターズクラブができていた。集会が認められなかった時代、サッカーの試合は、音楽、歌、ダンス等の楽しみだけでなく、反アパルトヘイト活動家たちに集いの場も提供した。

 

Freddie Saddam Maakeはそんな時代に育ちブブゼラの生みの親となった。誕生日に兄から自転車をもらったサダムは、試合に自転車のホーンを持っていき、選手の応援に吹いていた。1965年のことだ。その後も自家製の様々なホーンを使っていたが、ブギーブラストと名付けたアルミニウム製のホーンは形状が危険とみなされ禁止されてしまった。しかし1989年、サダムはプラスチック製造業者に出会う。彼はブギーブラストのプラスチック版の製造を依頼し、歓迎と団結を意味するブブゼラと名付けた。命名は1992年だという。1999年にはVuvuzela Cellularというアルバムまで作った。

 

彼は試合会場でブブゼラを販売したがあまり売れなかった。観戦時にブブゼラを吹く人はまれだった。しかし2001年にケープタウンの会社Masincedane Sportが大量生産を始めてから流れが変わった。サダムはその頃創立者のニールに取引を持ちかけたと主張しているがニールは否定している。Masincedane Sport製の売り上げも最初は芳しくなかったが、試合での無償提供等のマーケティング戦略によって徐々に広まり各地で使われるようになった。そしてワールドカップ開催国への立候補を受け、ブブゼラを南アフリカの音として売り込み、政治家にも配った。この戦略が功を奏し、2009年のコンフェデレーションズカップではブブゼラが鳴り響き、そして物議を醸しだした。

 

報道機関はその音の大きさに困惑しマイクを変えたり音を編集したりと対策を迫られた。選手からも選手間のコミュニケーションの妨げになるという声が上がった。ブブゼラの131デシベルもの音(ジェットエンジンの騒音に匹敵)は、聴覚障害のリスクを伴うという検証結果まで出された。

 

しかし不満の背景にはヨーロッパ中心主義のサッカー観や、アフリカに対する差別意識もあった。地元民は、独自のサッカー文化を否定する声に反論した。しかし初のアフリカ大会ということもあり、ブブゼラ=アフリカというイメージに他のアフリカ諸国からの反発もあった。また国内でも、クーズーホーンと呼ばれる角笛を吹く伝統文化に結びつけようとする考えに疑問を呈する声や、宗教儀式にホーンを使うバプティスト教会からの抗議の声が上がった。このナザレバプティスト・チャーチは後にニールの会社と示談になっている。このように南アフリカ国内でも由来が定まらないブブゼラだが、文化遺産とみなされ、イギリスの国立フットボール博物館と大英博物館の両方で展示さている。

 

2010年のワールドカップから数年後、FIFAはブブゼラの使用を禁止してしまった。複数の主要スポーツリーグも例にならった。しかし2022年7月、南アフリカ女子代表がアフリカネイションズカップで優勝した際、凱旋する代表チームを空港で迎えるファンの中にブブゼラを吹くサダムがいた。ブブゼラは今もサッカー文化の一部として愛されている。

 

---

スポーツは野球観戦にしか行ったことがないが、観客が一体となって歌ったり演奏したりする時の高揚感はよくわかる。あまりに大きい音は苦手だが、ブブゼラの意味を知って見方が変わりそうだ。