公開日: 2023/4/21
タイトル: The Long Legacy Of The Alpha Wolf Myth
ポッドキャスト: Science Friday
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概要:

「α(アルファ)オオカミ」と聞けば、誰もが群れの頂点に君臨する強いオスのオオカミをイメージするのではないだろうか。この概念は1947年のある研究より生まれ、1970年に出版された本により普及した。しかし著者のミーチ博士はおよそ25年にわたり、その誤った認識を正そうとしている。

 

オオカミは本来家族で群れを作るが、1947年の研究では寄せ集めのオオカミの集団を飼育観察した。結果、縁もゆかりもないオオカミたちは囲いの中で争い、雌雄それぞれのボスを決めた。研究者は最優位の個体をそれぞれαオス、αメスと呼んだ。当初この研究を疑うことなく著作の参考にしたミーチ博士だが、その後野生のオオカミを観察し過ちに気付いた。若いオオカミは群れから独り立ちすると、他と縄張りのかぶらないところで相手を見つけ新たな家族の群れを作る。群れの序列は自然と親と子という関係により決まる。博士は1999年に自然界における群れの観察研究結果を発表したが、αオオカミのイメージを払拭するのは難しかった。当時の男性優位の社会構造がオオカミの行動の解釈に影響を与え、誤った概念を広めた要因の一つと考えられる。

 

他の個体を支配するアルファという概念は男心に訴えただけでなく、犬のしつけにも影響を与えた。犬に自分がアルファだと思わせないように教え込むというやり方だ。トレーニングには大きく分けて二通りあり、おやつやおもちゃ等の報酬を与えて望ましい行動を引き出す正の強化を用いた方法と、通電首輪等の嫌悪刺激で物理的または心理的ストレスを与えて望ましくない行動を減らす方法がある。前者の方が犬の福祉だけでなく認識力にも好影響を与えるという研究結果が出ているだけでなく、嫌悪刺激はタイミングや強度を決めるのが難しいという指摘もある。

 

人は己の文化や社会的認識に基づき動物との関係を築こうとするため、昔からのジェンダー規範や覇権的男性性が動物との関わり方にも影響を与える。例えば研究者が米国の100人のドッグトレーナーのウェブサイトを比較したところ、男性に比べ女性トレーナーの方が正の強化を用いる傾向にあった。またペットに服を着せるという行動が女性の飼い主により多く見られる等、動物との関係にはジェンダー差がある。αオオカミ論は科学的には既に覆されているが、大衆文化や社会的意識に根付いてしまっている。動物との関係を変えるには文化から変えていく必要があるかもしれない。

 

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人は信じやすいものを信じる。どこで聞いたのか、犬を飼ったことのない私も、犬のしつけは人間が上だと教えることから始まると思っていた。自分の知識を疑う癖をつけなければ。