公開日: 2022/4/8
タイトル: How manatees got into hot water
ポッドキャスト: Planet Money
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概要: フロリダ州タンパ湾には一風変わったマナティー保護施設がある。550エーカーもの広さを誇るManatee Viewing Centerは巨大発電所のお膝元にある。煙を吐き出す煙突と動物保護区は一見すると相容れないかもしれないが、この発電所がフロリダマナティーの救世主となったのだ。
60年代、海のないミズーリ出身のパット・ローズ少年は、ジャック=イヴ・クストーのような海洋学者に憧れていた。フロリダを訪れた際に、クストーのクルーがマナティーを探しに来たがついに見つけられなかったという話を耳にした。当時、スピードボートとの接触事故や生息地を奪う不動産開発のために、マナティーの数は激減していた。自分が見つけてやるとボートをレンタルした彼は、運よくマナティーを発見した。900キロはあろうその巨体に息をのんだが、マナティーはまさしくgentle giant(優しい巨人)だった。少年はこの動物を守りたいと思った。

70年代半ば、水生生物学を学びフロリダに移り住んだローズ氏は、マナティーという動物があまり知られていないことに驚いた。自分が彼らの声になってやらねばと色々計画したが、研究助成金や啓発キャンペーンの資金が得られなかった。行き詰まっていた時、フロリダの大手公益事業会社が、マナティーの生態を調べる3年間の研究費用を支援するという不思議な提案を持ってきた。60年代から70年代にかけて環境意識が高まり、EPA(環境保護庁)が取り締まりを強化する中、周辺環境に重大な影響を及ぼしうる温水は電力会社の悩みの種であり、莫大な費用をかけて冷却装置を導入すべきか否かという決断に迫られていた。温水を好むマナティーは渡りに船だった。

マナティーは見かけによらず脂肪が少なく寒さに弱い。20℃以上の水温が保たれた環境にいないと死んでしまう。通常は冬季に暖かい地域に移動するが、生息環境破壊のためアクセスが限られ、かわりに発電所周辺に集まるマナティーが観測されていた。企業側は、発電所の温水が熱公害ではなく、絶滅危惧種に指定されている動物の保護に欠かせないものであるという確たる証拠が欲しかった。ローズ氏と地元の自然保護団体は、研究に関する全権を得ることを条件に調査を開始し、ついにマナティーがフロリダの発電所周辺の温水域に集まってきていることをデータで示した。

データが集まる頃には1,000頭程に減ってしまっていたマナティーを救うため、ローズ氏は協力者とともに州議会に訴え、マナティーの保護区を定める法律を勝ち取った。州内の公益事業会社も、マナティーの温水依存を根拠に冷却装置導入を義務付ける規制を退けた。企業のイメージアップにもつながり、観光客が訪れるようになった。

フロリダマナティーの個体数は2017年には6,000を超え、絶滅危惧種から危急種となったが、危機が完全に去ったわけではない。現在フロリダマナティーの60%が人工的な環境に依存しているが、社会が再生可能エネルギーにシフトした時、工場が放出する温水は止まってしまう。~860,000,000ドルかかると試算された冷却装置導入をせずに済んだ企業が、いざとなった時にどれだけマナティーに尽くしてくれるかはわからないままだ。

 

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自然との共生という言葉は美しいけれど、やはり経済的に理にかなっていて、WIN-WINでないと実現は難しい。
今回マナティーが温水を好むと知り、温泉好きの日本人のようで親近感がわいた。