フィラデルフィア通信⑳トランプ大統領のDACA撤回宣言、ドリーマーズの未来 | 019|まる・いち・きゅう

019|まる・いち・きゅう

丸い地球をまわりながら考えていることの記録

 アメリカには「ドリーマーズ(DREAMers)」と呼ばれる若者がいる。両親に連れられて幼い頃にアメリカに不法に入国し、そのままアメリカで育った子たちのことだ。自分ではどうしようもできなかった事情により不法移民という運命を背負った子たちだ。
 

 このようなドリーマーズに法的地位を与え、いずれは彼らが市民権を取得できる道筋をつくろうと、アメリカでは2001年頃から様々な議論がなされてきた。そもそも賛否が分かれやすい論点であることからなかなか決着がつかない中で、とりあえずの救済措置として2012年につくられたのがDACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)だった。DACAは16歳になる前にアメリカに入国した31歳未満の若者で、犯罪を犯していないなど一定の条件を満たしたドリーマーズ対して、更新可能な2年間の滞在・就労許可を与えるものだった。DACAにも多くの欠点はあったが、少なくともこれによってのべ80万人の若者が国外退去を恐れることなく働いたり、学校に通ったりできるようになった。それまで「自分は存在してはいけない」と、自分がドリーマーズであることをひた隠しにしていた多くの若者にとって、DACAは希望だった。


 しかし9月初め、トランプ大統領はこのDACAを突如撤回するとした。具体的には、DACAの新規申請を受け付けないとし、また現在DACAの認定を受けている人の滞在許可の更新も10月5日以降は受け付けないとした。やっと条件を満たしDACAの申請ができると思っていた若者、今後もDACAの更新を通してアメリカで生活を築いていこうと思っていた若者の未来が一瞬で閉ざされた。


 これを受けて、ペンシルベニア大学はじめ多くの高等教育機関は在学中のドリーマーズについてはDACAの認定を受けているかどうかに関わらず卒業まで守り抜くとした(ここでは割愛するがアメリカの私立大学にはそもそも不法移民も受け入れるしくみがある)。他にも更新手続きに関するアドバイスなど、当事者に対するサポート体制が緊急に敷かれた。そして今この瞬間も、なんとかしてDACA更新の期限を延長できないか、どうにかトランプ大統領によるDACA撤回を撤回(!)できないかと奔走している法律の専門家や政治家、活動家がいる。


 私も大学職員らを対象とした説明会で今回直接影響を受けたドリーマーズの体験談を聞く機会があった。どんなにがんばっても他の人と同じ機会を得られず、故郷に帰ることもできず、そして今回のような法律改正のたびに振り回されてきた彼女の話はリアルだった。法律は、より多くの人、とりわけ自分ではどうしようもできない環境に生まれ落ちた人を救済するものであってほしいと心から思う。

 

DACAに関する説明会は情報をもとめる学生や教職員で溢れかえった。

 

(SAITAMAねっとわーく11月号 PDF版はこちらから)