フィラデルフィア通信⑯組合めぐる攻防:大学院生が立ち上がる時 | 019|まる・いち・きゅう

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 ペンシルベニア大学を含む国内の複数の私立大学で大学院生の労働組合(以下、組合)を組織する動きが高まっている。これはコロンビア大学の大学院生の請願に応える形で昨年8月、全米労働関係委員会(NLRB)が「リサーチアシスタントやティーチングアシスタントとして働く大学院生にも全米労働関係法のもとに団体交渉権がある」と定めたことが発端になっている。NLRBは私立大学において大学院生が教育や研究の面で果たす役割が不可欠であるとし、大学院生を学生兼労働者として労働法による保護の対象とした。これにより大学院生はジェンダーや人種による差別があった場合に抗議しやすくなるほか、賃金や福利厚生についての交渉がしやすくなると期待されている。

 

 組合の組織は以下のプロセスから成る。まず大学院生の間に組合を希望する声がどれだけあるかを測るために「承認カード(authorization card)」と呼ばれるものを集める。組合に賛同する大学院生はこのカードに記入する。組合の組織化を率いる代表者らは集めたカードをNLRBに提出し、NLRBは組合を正式に認めるための投票を行うに値するかを判断する。投票が認められた場合、NLRBの地域代表者の管理のもとに投票が行われ、投票者(大学院生)の過半数が組合に賛同すれば組合が正式に認められることとなる。

 

 しかし障壁も多い。ペンシルベニア大学は6月後半の投票に向けて準備を進めている。大学からは「組合を組織するということについては情報をよく集めて慎重に判断するように」と諭すメールが送られてきた。組織化に向けた動きが高まったタイミングで「来年から大学院生対象の保険にはこれまで認められていなかった歯科も含まれるようになるほか、ジムの利用が無料になる」との通知もきた。イエール大学ではこれらのすべてのプロセスを経て組合が承認されたにも関わらず組合との交渉を大学が断固として拒んでいる。これに抗議するため一部の学生がハンガーストライキを決行するまでに至った。イエール大学はトランプ政権が新たにNLRBの委員を指名するまでなんとか交渉を引き延ばそうとしているとも言われている。トランプ大統領は組合反対を掲げる委員を指名すると言われており、そうすれば冒頭に述べた昨年8月のNLRBの判決も覆される可能性が高いからだ。

 

ペンシルベニア大学で大学院の組合化を目指す団体はGET-UP (Graduate Employees Together - University of Pennsylvania)と呼ばれる。

 

 かつては私立大学の大学院生も公立大学の学生同様当たり前のように労働法によって守られていた。しかし2004年、ジョージWブッシュ政権のもとでのNLRBが労働法の保護の対象から大学院生を外したことで状況が一変した。歴史は繰り返すのか。

 

 大学での教育や研究は国や世界の未来を支える柱の一つだ。より多くの大学院生が研究しやすく働きやすい環境を整えるために組合化に一定の意味があると私は思う。大切なのは苦しい時に一緒に闘ってくれる仲間がいることと個人で静かに傷つくことなく不正を訴えられるしくみがあることだ。

 

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