これまでヘアスタイルやスーツにそれなりのこだわりがあった。
若い時分にユーロにてモデルをしていた。男性的体型を好むデザイナーに呼ばれることが多く、体型維持と健康管理に努めてきた。
だが、所属していた事務所に登録抹消依頼を伝えた。特に引き留められもせず、長い修行のような忍耐の日々が終わった。
これからは妻とアイスクリームをたのしむつもりだ。
花に言われた。
「なんのためにがまん、してるの?ストイックすぎて苦しそう」
変わることを恐れてきた。
でも妻と暮らし、毎日彼女に変えられていく。それがちっともいやじゃない。
もう、いいんだ。
要するにかっこよくなくて、いい。
「がんばらなくていい」妻がそう言ってくれるので、お言葉に甘えて。
甘いお菓子とジュースにもチャレンジだ。
昔から、かわいい女の子が好きだった。
かわいくて、自分にはないものがある。
眺めているだけでもたのしいのに、デートして、キスして、自分のものにする。たくさんの子と浮名を流してきた。
でも結局、こころごとは自分のものにはならない。
だけど結婚して、ずっと愛していた女の子がぼくをものにした。
なんか、いい。
好きな女の子のものになるって、彼女のおなかにいれてもらったみたいで安心する。
「何度生まれかわっても必ずアレクスを見つける。年が離れていても、外国人でもかまわない。どこにいても必ずアレクスを探し出す」
「でも、ぼくがカタツムリだったらどうする?」
「わたしもカタツムリになる」
「ナメクジだったら?」
「…かなり、いやだけど、ナメクジになる」
ぼくは泣いた。このごろ、妻の前でよく泣く。
ぼくは引退する。
さよなら、かつての恋人たち。
