ある日、町へ出かけて

警戒警報になり、

急いで帰る途中、

畑の中の一本道を歩いているとき、

艦載機のグラマンに

見つかってしまい、

私の頭の上で

輪を描いているのです。

 

見渡しても

隠れる場所もなく、

人っ子一人歩いていなかったので

標的にされてしまったのです。

飛行機との一対一の戦い。

じっと見つめていた時、

敵機はキューンと

急降下してきました。

 

一瞬私は

転がるように

上向きになって

畑の中に飛び込みました。

背中に負ぶった赤ん坊の弟が

つぶれないかと思いつつも、

うつぶせになったら

弟の背中が丸出しになってしまう。

自分が下にはなれませんでした。

 

そして草むらに落ちたと同時に

ダダダーッと機関銃の弾が

三、四十メートルと

離れていないところで炸裂しました。

 

飛行機は確かめるように

ゆっくり廻っていましたが、

やがて遠くへ飛んでいきました。

 

家に帰ると

近くの一軒家が狙われて、

怪我人はなかったのですが、

タンスの中の着物が

ズタズタになってしまったと、

大人たちが話していました。

 

父は東京に戻り、

三鷹の中島飛行機の

軍の仕事をしていて

日曜日しか帰れませんでしたので、

私と弟たちは

農機具の入った物置の二階に

住まわせてもらい、

枯れ枝や落ち葉を集めて

燃料にしたり、

以前から運んであった

母の着物をお米に代えたり、

セリやタニシをとって

食料にしました。

 

 

セミしぐれの暑い日、

正午に

天皇陛下のお言葉が放送されるからと、

ラジオの前に集まりました。
 

 

雑音で聴き取れないでいると、

誰かが

「戦争が終わったんだよ。

戦争が終わった!よかったよかった!」

 

その声に、

止めどもなく涙が頬を伝わりました。