風に揺れ
ゆるりと待ち続ける
どこか遠くに
私を
此処に運んでくれた
あなたが
居ます
ただ、残念なことに
そこで息をしているか
どうかまでは
判りません
なぜなら
私は
ただの樹
ただの樹に過ぎず
覚えていることと言えば
燦燦と輝く太陽を遮るほどの笑顔で
じゃあね
といったあの姿
年月という概念がない私には
それが
いつでも
隣に在るのです…
雨に濡れ
さらさらと見つめ続ける
きっと見上げる人が多いから
あなたがここにいれば
私をきっと
見上げるでしょう
ただ、残念なことに
私を
あの時の私だと
認識してくれるか
どうかまでは
判りません
なぜなら
私は
ただの樹
それだけなのです
雪に埋もれ
しんしんと夢を見る
足音も
声も聞こえない
真っ白な世界で
あなたとの思い出で
暖を取る
この心が
逢いたいということであるなら
なぜ私は
根を持ってしまったのか
なぜ私は
樹を選んだのか
もやもやと煙を天高く掲げ
患う火花を振り払う
人ではない
ただの樹
それでも
想えば想うほど
心は人の形を持ってゆく
それが
なぜか
全ての枝をしな垂れさせる
ただの…樹の筈なのに…
陽を浴びて
ひらひらと舞い散る
温かな土の香りと
賑やかな
流れる川のような人の波
そこら中に
私の花のような笑顔が
咲き誇る
でも…
なんだか…
そう、なんだか
冷たい…
枝の隅々まであの光を追い始めた頃から
私の見渡す世界は青白く化粧をする
そして
より鮮明にあなたの笑顔が
私の生(ゆ)く手を遮ってしまう
ただ…
私は樹
幾ら足掻こうと
動けず笑えず
静かに佇む
ただの樹
なのだ…
風に揺れ
雨に濡れ
雪に埋もれ
花を散らしても
逢いたいという贅沢は
願えもしないし
祈りもしない
私は樹
大きく
大きくなったあなたの樹
朽ちて崩れ去るその時まで
あなたを想い続ける
ただの
「さくら」
と呼ばれた
ただの樹
なのだ…
by梟霊