どうして好きになったのかも
判らない
どうして好きになってしまったのかも
解らない
笑わないその横顔を
見つめながら
僕は
胸の中の自分に問いかけていた
いつからか
静かな君が、語り掛けてくるようになった
不意に
ふと
何かを想ったかのような
片言の問
僕は、其の度に首を傾げて
困ったように笑うんだ
でも君の瞳はまっすぐで
とても
冗談を言っているようには
見えなかった
静かになった秋の終わり
澄み渡る夜空に
輝く星々と
僕と君
月明りの中で
青白く浮かび上がる世界と
虫の音響く野原の影
肌寒い縁側に
奇妙な薄着で座り
一口、二口
お酒を口にする君がどこか遠く思えた
広い背中
大きな手・・・
あぁ、なんでどうして
こんな不愛想な人を好きになったんだろう
溜息と一緒に
横に座った僕を
珍しく笑顔で見下ろす君が居た・・・
息、白く
宙を舞う舞う
朝の束の間
漂う孤独
立ち尽くす僕は
君の寝顔を
ただただ漠然と見つめるしかなかった
どれだけ願っても
どれだけ求めても
見る事が叶わなかった
優しさを湛えた笑みを浮かべ
吐息をたてず
胸を動かさず
静かに横たわる
その姿に
徐々に、徐々に
僕は影を落としていった
どうしてこうも不器用なんだ
どうして、こうも無口なんだ
幾ら揺らそうと
幾ら呼びかけようと
もう、その体は動かない
もう・・・その声で答えてくれない・・・
あぁ、あぁ・・・
はじめて埋(うず)めた君の体は
初冬の冷たさを帯で
突き放すような固さで
僕を包む
愛しても
愛しても
届かぬ君の温もりを
僕は、必死になって
取り戻そうとしたけれど
したのだけれど
結局は
静寂と沈黙の中で
眠り続けたまま
起きることはなかった
焔は君を温めるだろうか
焔は、君を癒してくれるだろうか
誰一人いない
二人だけの火葬場
響くお経
染付いたお香の匂い
燃えていく
燃えてしまう
その笑顔
泣きたいのに
涙が出ない
叫びたいのに
声が出ない
ただ一枚の写真を見つめるばかりで
あの笑みを想うばかりで
僕は、独り
さみしいと呟いて
目を閉じた
焔の中に眠る君を想ったまま
灰を待つ
刻々と刻々と過行く時を数え
顔を上げる度に
その音にもならない音が
すっと響く
僕も眠りたい
僕も、眠り続けたい
指先で転がす
指輪が
妙に重く
いっそ、投げ捨てたいと思うほどに
憎らしい
暗がりから引き出される台の上は
崩れかけた君の骨と
灰と
僅かに残った面影が横たわるだけ
からり、ころりと拾い上げる度に
何か・・・
何かが・・・消えていった
独りの僕と
一人の君
本当に長く思える
納骨の末
ようやく灰を掬い取る
込み上げる想いはない
滲み出る想いはない
無いものだらけで
ひどく疲れる
その灰の中から
ぽろりと落ちた何か・・・
指輪だ・・・
変形し
若干溶けかかったそれを
おもむろに拾い上げる
うっすらと
裏側に刻まれた文字
日付と僕の名前・・・
そして、消えかかっているけれど
求めても
ねだっても
言ってはくれなかった
嬉しい言葉・・・
僕の指輪には刻まれていない
きっと
自分でつけたんだ
きっと
自分に誓ったんだ
好きだと言えないから
もし・・・
もしも・・・
時間が巻き戻せたなら
僕も、悪戯に笑って
同じことを言ってやるのに
同じことを
していたのに
僕は、僕は
なんて、ことを・・・
石は、語らず
意志は、判らず
想いだけは、その石よりも
重く積み上がる
僕は、私となった今も
後悔する
寝顔を抱いたまま
寂しさに震える
別の人と愛を育み
その背を見送っても
あなたは、心の隅から消えてはくれなかった
ずっと
ずぅっと
静かな笑みで私を見上げている
影を深く
あなたの上に落としても
動かないでしょうね
この心に
今の人よりも
深く刻まれた愛なんて無いもの・・・
幾ら彼を、あなたに重ねても
幾ら彼を、あなたに被せても
全く違う
全く違う恋をして
愛をした
でもね、もう、どうでもいいの
だって、私もあなたのところに
もうすぐ
もうすぐ旅立つもの
多分その時は
あなたが私の寝顔を
見つめてくれるのでしょう?
どんな顔すればいいかしら?
おかしくて
逆に、楽しみになってしまったのよ?
静かに眠ることが、ね?
ねぇ、あなた?
ねぇ、あなた?
あなたは、今の私でも
あの頃のように
好きになってくれるかしら・・・
それとも
もう、どこかに行ってしまって
眠る私の、横には
居ないのかしら
あぁ・・・
どちらなのでしょうか
わくわく、しますねぇ・・・
byキケロ