泥の行進
腹が空いて
腹が空いて
降りしきる雨水ですら
甘い酒のように思える
カタカタと震える
単発ライフルの金具は
ひたすらに歯を食いしばり
私の脇腹をどつく
そうしなければ
毒草かもわからぬ南蛮草草を
手当たり次第に頬張りそうだからだ
あぁ、いつまで続くのだ
苛立つ上官に聞こえぬように
雨に溶け
泥にはじけ飛ぶほどの声で
愚痴を流した
友の死骸が
街中の街灯のように並ぶ藪道を
当てもなく彷徨う
戦は、終わったのか?
戦は、終わったのか?
突撃のラッパも鳴らず
撤退の号令も聞こえず
銃声無き静寂に
戸惑う私は
迷い人
降りしきる雨は
やがては、落ち葉すら押し流す
足元はぬかるみ
ただでさえ
ふらり、ふらふらと
進んでいるのに
取られ、盗られて
幾度となく
顔を埋めた
あぁ、母よ、妻よ
この森の静寂の悲鳴は
戦場のどの騒音よりも恐ろしい
逃げても
逃げても
まるで離れてはくれないのだ
まるでそう
私の倒れるさまを
今か今かと待ち望む
獣のように
じっと見つめている
天地が回り
冷たさも
暖かさもない
泥の中
見たこともない
アリたちが
互いを結び
大きな流れに逆らって
渡っていた
一匹が私に噛みつき
また一匹が私を噛みつき
しゃぶりだしても
痛みすらなく
わらわらと鬱陶しくたかろうと
振り払う気力もなく
ただただ、これが
土にかえるという事かと
両の瞼を
閉じた次第であります
byキケロ