神様のオルゴール
アナタは、神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人・・・
アナタは、彼を許しますか?
一つの物語には
一つの世界しかない
どうしてかって?
アナタは一人しかいない
この本が幾ら在ろうと
幾ら問いかけようと
描かれただけの問いかけに
はいか、いいえしかないのなら
アナタの中に出来上がった世界は
迷い無く彼を消すだろう
アナタは神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人
はいか、いいえで答えなさい
アナタは、彼を許しますか?
世界は無情
なぜ、そういえるのか・・・
アナタが裁こうとした少年の手には
一粒、二粒の小さな玉が握り締められていました
それは、少年の住む地域では
とてもとても高価で
まず、貧しいモノ達の財産一区切りでは
買える代物ではありません
しかし、決して盗んだものではなく
恵んでもらったものでもありません
少年が、想う家族のために必死になって働き
ひょんなことで助けた異国の人より
受け取ったものなのです
少年には、其れにどんな価値があるかも解らず
ただ、寝たきりのモノに飲ませなさいと言われ
貰った物
アナタは神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人
はいか、いいえで答えなさい
それ以外の回答も応答も選択もありません
アナタは、彼を許しますか?
少年は、大切に握り締め
帰路を駆けている
想う家族が、助かるかもしれないと
胸躍らせて
胸、躍らせて
駆けている
ところが、とあるモノはそれを見ていて
其れが何であるかを理解していた
一生を遊んでも、使い切れないほどの金が手に入る
瞬時に、奪おうと試行錯誤し行動した
だが、幾ら少年を足止めしても、言い聞かせても
一途に聞く耳を持たず
利口で、罠にも掛からない
とあるモノは、考えました
考えて考えた末に・・・
そうか、使うものがいなくなれば
それも不要になるだろう
と、閃いてしまったのです。
アナタは神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人
はいか、いいえで答えなさい
それ以外の回答も応答も選択もありません
アナタの指一つで決まることです
アナタは、彼を許しますか?
とあるモノは、先回りをしました
そして、ついに床に伏した少年の妹を
殺めてしまったのです
そして、あたかも間に合わなかったかのように
振舞おうと画策し
仲間を集め
事の次第を話し、懐に笑みを忍ばせて
皆、少年の帰りを待ちました・・・
皆?
そう、皆・・・
この少年の親でさえ
とあるモノに協力しているのです
さぁ、ようやく少年の登場です
あるものは神妙に
あるものは泣き崩れ
あるものは無言で少年を手招きし
あるものは、亡骸に触れて
愛おしそうに見つめている
小さな灯篭に浮かび上がり
青白いはずの頬は未だ温かみを帯びて
たった今逝ってしまったかのよう
少年は、駆け寄り
何度も声を掛けました
しかし、虚しく時は過ぎ
やがて、大声で泣き出したのです
ですが、とあるモノは気がつきました
薬が無い・・・
いったいどこに隠した・・・
とあるモノは、必死で演じています
ですが、それも人それぞれ
我慢しきれなくなった一人が
少年を叩き倒し
問い詰め始めれば
あれよあれよと言う間に
とんとんと
こんこんと
入り乱れ、殴り合いが始まったのです
とあるモノもこれには成す術も無く
ただただ、宥める事に必死
そこに、欲に埋もれた刃が飛び込んだのです
一人、また一人
少年の目の前で
人が裂かれていく
少女の眠り顔が紅色に燃えて行く
ゆらゆらと影ばかりが蠢き
最後に残ったとあるモノも
少年に助けを求めて
息絶えたのです
翌朝、何も知らない
赤の他人が、とある村を訪れ愕然とします
折り重なった人肉の羽織の中に
身丈ほどの刃物を片手に
もう片方には、少女を抱きかかえた少年が
がくがくと震えながら
見開いた瞳で、立っていました
他人は、腰を抜かしそうになりながら
必死に、必死に隣村へと駆けて
見たままを伝えたのです
悪魔
悪魔の子
大人たちは、他人の言葉に激怒し
縄を持ち
鍬を持ち
鉈や、棒切れをもって
少年を目指したのです
アナタは、神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人・・・
さぁ、早く決めなさい
アナタは、彼を許しますか?
彼らが村に着いたとき
少年は、少女を抱きかかえ
少女の口に何かを押し当てていたそうだ
隣村の大人たちは
言葉を失った
なぜなら、少年の前には
綺麗に並べられた
腕の組まれた九十九人の死骸が在ったからだ
彼らの長が、少年に尋ねた
少年よ少年
彼らを殺したのか?
少年は、少女をゆらゆらと揺らしながら
小声で子守唄を詠いながら
小さく頷いた
それから、それから・・・
少年は・・・
アナタは、神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人・・・
アナタは、彼を許しますか?
例え、真実が無実であっても
罪の中に沈んで行った少年を許しますか?
今になって許すとしても
既に、アナタが裁いてしまいました
どうにもなりません
残念です
少年は、一人も殺してなどいませんが
アナタは、少年を殺しました
罪とは、なんと深く難解な問いかけなのでしょうね
すみません
いたずらが過ぎましたね
フフ、そう怒らないでください
ただ、幾ら純粋な音色を
心に持っていたとしても
人は、見える真実にのみ
審判を下してしまうもの
違いますか?
どんなに美しく鳴り響くオルゴールも
止めてしまうのは人
唯一止められないものといえば
神様のものぐらいでしょうか・・・
そう、アナタが創った世界の人間は
アナタのオルゴールを止める事ができない
幾ら、殺しても罪にならない
神様と言う存在のアナタを、ね?
アナタは、神様です
全知全能をもって
一人の少年を裁こうとしています
罪状は殺人
数は九十九人・・・
よく考えて答えなさい
アナタは、彼を許しますか?
はいですか?
いいえ、ですか?
by幻想師キケロw