時々、怖く。時々、幸せ。
静かな病の足音に
耳を傾ける毎日
この手が動くうちに
書いておこうと思った
一枚の手紙
三十六文字でも
四十文字でも
簡単に五文字でもいい
ただ・・・
いざその白紙を見つめれば
決められた死にたいして
疑問と生きたいという思いばかり
いつの間にか
鉛筆なんて
ベットの下に転がして
泣いていた
昼下がり
誰もいない
真っ白な部屋
夕暮れ
遠くの蜩が徐々に鳴き声を弱めていった
泣き疲れた顔に
太陽が優しく慰めて
抱きしめてくれた
生きたいと我儘を叫びに変えても
大丈夫と、言い続けるだけの太陽に
苛立った
振り払って
探した
自由の利かないこの体を捻りながら
やっと見つけた鉛筆に
なぜか、笑みが零れた
拝啓
お母様
お父様
そして
友達や先生、あと病院の人たちへ
僕は、どうやら死ぬようです
いや、死ぬのです
どんなに、あなた方の隣に居たいと願っても
叶わないようです
笑って逝けるといえば嘘になります
だって、この手紙を書こうとしたとき
涙が止まりませんでした
だから、きっと
今も泣いています
なにを書くべきか
判らないからです
真っ白な部屋に来てから
もう一度そっちへ帰れると信じてきましたが
その微かな希望さえ
砕けてしまった
だから、叶わぬことを望むことよりも
一分一秒を大切に過ごしています
・・・・・。
書くことがあんまり思いつきません
だから、気持ちだけを簡単に留めておこうと思います
僕は、
【時々、怖く。時々、幸せ。】
どう感じようと、どう想ってくれようとかまいません
ただ、目を覚まし声を掛けてくれる人がまだ居る、ことの幸せと
それを失ってしまうという恐怖が
この動く心臓の奥底の輝きにぶら下がって
弱虫に変えてしまうのです
それから
当たり前のことのようですが
この手紙を読む頃には、居ないと思います
ですから今のうちに
ありがとう、とこころ無い言葉を
書いておきます
では、御機嫌良う
以上
バラバラの文章にくすりと笑った
それを三つ折りにして、鍵のある引出しへ
カチリという音を確認した
さぁ、終ったと
賑やかになった空を見上げた
カチンと明かりがついた
看護婦の声が
やけに新鮮に聞こえた
口に運ぶ夕食の品々が
とてもご馳走に思え
とても美味しく思えた
あぁ、いつまで続いてくれるのだろう
生きているということが
とても、幸せに思えた
by幻想師キケロw