帰らない黒猫
(′・ω・)第五話、不機嫌な猫(そのご)
籠の隙間から、彼らの声が覗きこんでくるように思えた。なんだかそう、変な音が私の内から響いてくるのを感じた。とくん、とくん、とくん、とくん。しんわりと、何かが這い上がってくるような感覚。温かいものがふわふわと広がっていくような感覚。はて、この生きているような。いやまて、死んだものが生きているなどとは、ありえないこと。だが、しかしなんだ。この毛の一本一本まで、逆立つ、漲る力。不思議な青い光が飛び交っている。
うつろな目に、自らの手を映した。白く尖ったものが、自分の意思に従って、出たり引っ込んだり。あぁ、きっとこれは夢なのだ。夢の続きなのだ。今またこの瞳を閉じれば、また元通りさ。そう思って、押し寄せてきた睡魔に、逆らおうとはせず、すぅっと視界を閉じていった。
「ねぇ~おにぃ~?この猫起きないねぇ~。」
ふと、何かに抱きしめられる感触。何やら私の胸が、窮屈で仕方が無い。いやいや、その前に、妹の声がなぜ耳元から聞こえるのだ。ぱっと、両の瞳を開いた。目の前には彼が居た。ここは、居間か。そう問いかけた。彼は軽く頷いた。よくよく見れば、彼の座る大きな椅子には黄色いリボンをつけた古いバスケットがある。そこから出されて、なおかつ、弥勒ではない誰かに抱きしめられている。私は、はっきり言って状況が読み込めないでいた。
「あらあら、スムちゃん。お目覚め?どうしようかしら・・・お腹でもすかせているのかしら・・・」
台所の影から、ぬっと生えてきた彼の母親。まだ、かなり若いように見えた。いままでチラッと見る程度だった。まともに見るのは初めてだ。そして、その横から、陽気な笑みを浮かべた奴がいた。
「おおう?めー覚めたのか?このくろんぼ。かっかっかっか。俺の居ぬ間に取り入るとはいい根性だ。」
体にきゅっと力が入った。
「いったぁーっい!!おにぃ、爪、たてたよこの猫!!!」
不意に彼のほうへ放り投げられた。くるりと、宙で体を回し、彼の膝の上に着地した。そして、顔に力を込めて、やや強めに叫んだ。
「つめ?爪だと?馬鹿な!!」
ふぅふぅ、と息を荒立てて、左の前足を突き出して、妹に見せ付けた。
「そんなもの死んでから生えたこ、・・・・とも・・・・?。ん?」
が、何か手の先で出入りしている。裏返して、顔を近づけてよく眺めた。確かに、爪がある。
振り向き、見上げ、弥勒にも見せた。彼は、呆れた顔で何も言わず、ただ、だらだらと頷いていた。
by幻想師キケロw