帰らない黒猫
(′・ω・)第二話、家猫(そのよん)
今、私の視界は、真っ暗。と言うほか無い。これは、後から知ったことなのだが、【せんったっき】と言うものが存在するのだそうだ。なんでも、人の手が入らぬ便利物。中を、覗いてみれば、右に左にぐるぐると回っているだけのように見えるが、洗濯と言うのだ。しっかりと洗っているのだろう。一昔前なら、口をとんがらせた子供達が、家の隅で、よく洗っていたものだが此処最近そういったものを見ないと思えば、なるほど、こういうことだったのか。おっと、話を戻そう。とにかくだ、私も、あの中のぐるぐるのように、真っ暗のなかでそのようの状況に陥ってる。生きていたのなら、間違いなく美味い晩飯が全て、生まれた世界へ戻っていくことだった。だが、この体に戻すというものはない。腹に入ることすら、無いのだから。しかし、それでも、目は回りそうだ。実際、死んでしまえば、地面でも、壁でも、空でも意思一つで潜るなり、通るなり、飛ぶなりできる。最初は、慣れないせいもあったがよく目を回したものだ。だが、数百年の時間で、そんなことはもう無いだろうと思っていた。だが、ふかふかの布団に挟まれて、こうもぐるぐる、ぐにゃぐにゃにされてしまっては、はっきり言うが未知の領域で、回ってしまうのも仕方が無い。ん?、心地の良いもの二つといったが、何を苦笑いしている。ははぁ、さてはよからぬことを考えたな?。まぁいいさ、健全な男子であろうと女子であろうと、年頃だ。考えなくは無いだろう。誤解を生むような発言をした私にも非があるが、想像するのは君達であって要らぬ期待をして、他人のせいにする、というのはいささか不毛の地と言うのではないのだろうか。とはいえ、時で言うと、そう長くは無かったが、弥勒が部屋に戻ってくると、御前なんだその雑巾のようなぼろ姿、と言われてしまうだけの状況ではあった。
「アイツ・・・。はぁ、何度言えばわかるんだか・・・」(毛とか、ついてねぇーよな・・・)
彼は、私の姿に呆れもしたが、直ぐに自分の布団をくまなく見にいった。私は、今の体験で、精神的に疲れた。そして、逆立った毛並みやら何やらを、前足と舌で、念入りに梳かし始めた。梳かしながら、私は、彼に話しかけた。
「・・・・、いささか、弥勒の妹と言うのは変わっているな。」
「あん?」
「どうして、君の布団、掛けのほうに抱きついて、きゃあ、だの。うんうんだのと騒げるのだ?」
「・・・。」(改めて言われると、自分の妹が痛々しい・・・)
「ん?どうしたのだ?変な姿勢で硬直して。」
「いや、なんでもない。まぁ、なんていうのか、仲が良すぎるって言えばいい、のかな?」
「ふ~ん・・・、まるで君の・・・、いや、今で言えば恋人か。そのような発言もあったのだが。」
「・・・・・・・。あ~、それは何だ。気のせいだ。」(あいつ!!今度、部屋入ったらとっちめてやる!!)
「そうか、ならいいのだが。」
すると、今まで折り曲げていた腰を、突然ぴんと伸ばしたかと思うと、弥勒は振り返り言った。私は、相変わらず、変化は無い、まぁ、いうなればおかしな格好に時折なってはいたが。なにせ猫だからな。
「って、そういえばおい!」
「何だいきなり。」
「御前、何のんきに寛いでんだよ。」
「なにって、君がここで待つように言ったのだが?」
「そりゃそうだが、さっきの話の続き!話せよ!」
「せっかちだな君は。」
「せっかちも何も無いだろう。元はといえば御前が原因なんだ。」
「はぁ、まったく。・・・・・。どこまで話したかな?」
「どうして、扉の前で暴れてたのかまでだよ!」
「おう、そうだったそうだった。」
私は、腹の毛を梳かしていたのだが、弥勒は、そんなもの関係ないとでも言う風に、話の続きを迫った。案の定、腹の毛を梳かしていたわけだから、格好としてはあまりよろしくはない。ましてや、本当に久しぶりにやるものだから、自分でもどうだったかな、こうだったかなと考えながらやっているわけで、思うようにはかどらない。やきもき、しているものだから、ついつい意地の悪い話し方になってしまう。それを、彼も察したのか、ある程度話した頃に、もういい大体解ったから毛繕いをやっていろと、再び布団を直す作業に戻った。ふと、彼の背中を見つめれば、もう、怒ってはいないようだ。なんというか、ほっとするような。なんともいえないな。
十時を回った頃、ようやく私の毛並みは整った。彼は、ごろりと横になり、色合い豊かな書物を読んでいた。
「そういえば、例の糸どこ行った?」
枕に頭を乗せたまま、こちらを見る。そういえばこの布団、昔のように床に敷くものではないのだな。やけに高く、そういえば弾力もあったな。いやいや、そんなことより、彼が言う糸が、気がつけば確かに無い。立ち上がり、くるくると回ってみるが、確かに無い。
「ほう、これは・・・。」
「帰れるんじゃないか?」
「どうやらそのようだ。」
それを聞くと、彼は、自分の部屋の窓を、カラリ開けた。
「ほら。」
「ん?なんだ?」
「帰るんだろ?、御前さっき言っただろ。家のものはなぜか通り抜けできないって。だからほら、開けてやったんだ。」
彼の表情は、いたって普通。夕方ごろの不機嫌はどこにいったのか解らないほどに。それでいて、なぜだろうな、窓の外へ親指を立てて行けという姿が、腹立たしく思えて仕方が無い。爪が、彼のほほにでも引っ掛かってくれたらなと、去り際の悪戯を考えてみたが、事実それは不可能だ。私は、やれやれと小声で言うと、前足を二つとも窓枠に乗せ、スンスンと外の空気を吸うと、勢いよく飛び出した。
「おっふぅ!!!」
「・・・・・・・・。」(あぁ~、わっりぃ・・・・・・。)
しかし、まぁ、お約束と言うのは存在するらしく、地面に到着するかしないかで、再びあの糸が顕れ、この体を、ものの見事に宙に浮かせた。私は、恨めしく彼のほうを振り返って見上げた。弥勒は、すまないといった表情でこちらを眺めていた。こうして、私は弥勒の家に、身を寄せる破目になった。家猫としての、生活が始まったのだ。
by幻想師キケロw