帰らない黒猫 | 梟霊のブログ

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帰らない黒猫
(′・ω・)第二話、家猫(そのに)
 
 
 
 
 
 不思議なくらい誰もいない道を、たかだかの距離を全力で走る。断っておくが、この体は全力で走ったとしても、息は切れないし疲れもしないし、眠ることも必要ない。ただ、眠ることができないのは少々残念でもある。弥勒は、なんだかんだ言っても、私の背中を眺めていた。そういえば、こんなことが前にもあったような気がするが、なにぶん長く過ごしている。忘れも、するだろうな。
 私の塒(ねぐら)は、誰もいない民家の軒下。いつまでも帰ってこない主人を待っている二本の立派な門が、静かに泣いている。どうやら、私では役不足のようだ。それに、まだ春の始まり。夜は冷え込むのだろう。近くの木々の枝先に止まる五羽のすずめが、串に刺さった団子のように寄り添って、僅かながらに震えていた。
「さぁ、今日も終る。都合のいいことに、このところ星空を眺める日和が続いている。また、朝までじっくりと楽しもうか・・・・。」
そう、独り言を溢して、門を潜ろうとした。そのときである、ぐいっと何かに引かれた気がした。
「・・・・?」
最初は、何が起こったのかさっぱりわからず、前足に力を入れ、後ろ足に力を入れ、ぐいぐいと進もうとした。それでも、そこから前へは進めない。どうしたというのだ、こんなことはこの体になってから初めてだ。久々につめを立ててみるものの、硬い道路をすり抜けるばかりで要が足らず苛苛する。かといって、柔らかいのか硬いのか良くわからない肉球に力を込めてもやっぱり、それ以上は、いくこともまま成らない。私は左右の耳を交互に折りたたんでみたり、月の光で銀色に輝く髭を、ぴんとたたせてみたりと、いろいろなことをして考えたが、どうにも解決するときがわからない。人で言う、正座のように背中を伸ばし前足を立てて座り、やはり考えに考えるが、頭が次第に重くなるばかりで、さっぱり解らない。ならばと、振り返ってみると、先ほどまでなかったはずのものが一本、ひょろりと細い糸のようなものが弥勒の家まで繋がっている。細いといっても凧糸ほどはあるだろうか。それはともかく、彼の家に繋がっているのだ。私は、まさかだろうと思いつつ、ゆっくり、ゆっくり、恐る、恐る、その糸を辿った。彼の家の玄関の前に立つと、私はあんぐりと口を空け、下から上へと眺めた。家の前の塀に取り付けられた小さな鏡には、呆れるほど間抜けな顔が映し出されている。間違いなく、糸はこの家に繋がり、しかも見るに中に入っている。どうしようか、さすがにさっき気持ちよく別れたばかりで、今再び顔を合わせるのは気まずい。笑ってどうもと挨拶したところで、彼の不機嫌になっていく顔が目に浮かぶ。うろうろと、それはもう。そこらの野良猫と変わらないくらい、うろうろと途方にくれていた。不意に、シャッという音がした。慌てて門影に隠れて様子を伺う。二階、外を伺う人影は、紛れもない弥勒本人だった。私は、溜め息を突いてその場に蹲った。
「・・・・・ん?」(アイツ・・・、何やってんだ?さっき成仏するって言ったばかりだろう!まだ続けるつもりかよ。あのストーカー猫め!もういっぺん強く、言わなきゃダメだな!よし!言って・・・、何だこれ・・・・・い、と?どこに繋がってんだこれ。よし思いっきりいっぱりゃわかんだろ!!)
私は、地面を眺めてあぁでもないこうでもないと考えていた。っとその瞬間。頭から思いっきり何かに引っ張られた。あまりにも突拍子も無く引かれたため、透通れることを忘れてしまい、玄関の扉に衝突、そして後頭部をくっ付けたまま、手足をピンと伸ばしたまま、じたばたともがいた。
「あれ?アイツどこ行った?」(おかしいな・・・。この糸切れないし、なんつーか・・・なんか引っかかってる感じがする。それになんだろ、うっすらと光ってね?これ・・・気持ち悪!)
「ロクー、ロクー?」
「あーい、なに?かあさん。」
「ロクー、ちょっといいかしら。玄関のほうがなんだか賑やかなの。猫かしら?鼠かしら?それとも野犬?なんだか解らないし見てくれない?」
「え~、父さんどうしたんだよ。」
「お父さん?今日、帰ってこないって言ってたでしょ。同僚と二泊三日で仕事だって。」
「あ~、聞いてなかったわ。」
「いいから、早く見てちょうだい。」
「へーい」(ったく、めんどくせぇ・・・)
女の声がする、それと同調すように少し篭った声ではあるが弥勒の声もする。女のほうは母さんといったところで母親で間違いないだろう。いやいや、そんなことを考えている暇は無い。早く離れなければ。私は、さらに全身全霊を込めてこの扉から離れようと足掻いた。しかし、不思議なことに、磁石のようにくっついた私の体、もとい後頭部は離れてはくれなかった。そうこうしているうちに、重い足音がドンドンと近づいてくる。そして、ぴたりと止んだ瞬間。何か金属音がすると同時に、扉が開いた。もちろん、私を引き摺ったまま。
「かあさん、何も居ないよ~。」
「えぇ~、おっかしいわねぇ・・・確かにバタバタしてたんだけど。」
「気のせいじゃない?」(気のせいでもないけどな!!思いっきり憎たらしい尻尾見せやがって。隠れたつもりか?こんにゃろう!)
「ん~、・・・そうね。気のせいね!」
「歳?」
「あ゛?」
「あ、いや、何でもありません。」
「そうよねぇ~、まだこんなに若いものねぇ~。冗談きついわ。ロクちゃん。」
「そうだよ。何かの何かの聞き間違いだよ。やだなぁ。」(アンタのその顔のほうが冗談きついわ!!この猫かぶり!いや、狐か何かだろ!!うちの親父、メロメロにさせる顔とは裏腹にこの凶悪極まりない裏の顔・・・あぁやだやだ。一度、こっそり撮って親父に見せてやりたいわ・・・)
 何か言い知れぬやり取りが、背中のほうに響いて、ぞわぞわと毛を撫でる。ばたつくことも止め、その話に耳を澄ましていたが、おかしな会話が長々と終ると、尻尾を捕まれ、持ち上げられた。さかさまになった世界で、一番に飛び込んできたものは、案の定、不機嫌な弥勒の顔であった。
「や、・・・やぁ。暫くぶりだな。」
「・・・・・。何か言訳があるなら聞いていやる。」
「ロク、アンタなにしてんの?」
「なんでもないよ。かあさん。なんか見慣れない虫がいたから見てるんだよ。」(あぶねぇあぶねぇ!まさか化け猫ですとかって言えるわけねぇジャン!)
「そう・・・ならいいんだけど。」(そのぶら下がってる黒猫が虫ねぇ~・・・)
「はは、そうだよ。やだなぁ。」
「・・・・・・・にゃぁ・・・。」
「お前は黙ってろ!!!」
「?。誰に向かって言ってるの?やっぱ外になにか・・・」
「いやいや、そんなもの無いから、無いからね!!」
あぁ。私はいつまでさかさまにされているのだろうか。苦痛ではないが、いささか酔いそうだ。そして、さかさまのまま、私は、弥勒の部屋へ連行されていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
by幻想師キケロw