夏の神様がくれたもの
小さな雨粒を
鼻さきで受け止めた
あの道は、もう無い
アスファルトで覆われて
辺りには家家が連なり
盛んに車が往来する
でも、あの時雨宿りした小さな祠(ほこら)は
あのころのまま
町外れの隅っこの木陰で笑っている
おかえりと告げていた
どこからか聞こえた
あの日、あの時の私の声が
楽しそうに
駆けている
ふと、何かに包まれた
目の前にはあの頃の村並み
小川と砂利道
草っぱの青臭さ
まさかと想い振り返れば
現実は向こうへと遠のき
過去の思い出が横たわる
其処には、田んぼが在り
メダカがいて
ザリガニもいなごも
たんぽぽも
楠も、楓もみんな
水を弾き返して
輝いている
暖かくもどこか清々しい風が吹き抜けて
濃い青空と入道雲が迫ってくる
どうしてだろう
あぁ、どうしてだろう
最近は、こんなにも心揺れ動くことなんてなかったのに・・・
私は、じわりと滲む汗と涙を堪えながら
感動という二文字(ふたもじ)で満たされて
なにか、そう・・・
開放されたかのような自由な感覚に抱き寄せられていた
向うに虹が伸びている
トンボが気紛れに
往来し
どこからか
カラスがもう夕方だよと
教えてくれた・・・
気が付けば
頬を赤く染めた祠(ほこら)が
ひぐらしと共にひっそりと佇み
何食わぬ顔で私を見上げていた
あぁ、きっと
これはきっと
戻ってきた私へ
夏の神様がくれたものに違いない
変わってしまっても
昔のままに
此処にいて
じっと帰りを待っていてくれたのだ
ありがとう
本当に、ありがとう
夕日の向うに不思議な雲がある
虹色に輝くそれは
きっと
この神様の宝物に違いない
私は、それに手をかざすと
すかさず握り締め
胸のポケットにしまい込んだ
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