しゅ
時は静かに流れる
私は、再び根を大地に付けることができ
少女もまた大人になり
素敵な人と巡り合い
子供に恵まれ
様々な顔で空と私を見上げ
やがて
巣立つものの背をそっと押した
私が、大きくなった頃には
髪は白くなり
昔の面影など無いに等しい
その青い瞳を除いては
かつて見下ろしたあの道は
今では、家と呼ばれる箱が連なり
人々の声で溢れかえっている
この家も私の靴の上に立っている
掘り返せば、きっと出てくることだろう
亡骸のように萎れているだろうがな
あの道の先へ行ったものは
どこまで行ったのだろうか
大きくなったと言っても
争うまでもなく光が届くこの身は
高くなる必要も無く
ある程度で、満足してしまって
先がそれほど見えないのだ
ただ・・・
それでも
見えるとすれば
銀色に連なる木々が
遠くで光をキラキラと跳ね返していることぐらいだろうか
木陰でくつろぐ
老婆
私よりはずっと若いだろうが
どこか
かつての私のように
待っているような気がする
最後のその時まで
たまに口ずさむ
昔ながらの歌声は
小さく、か細い
それでいてどこか
そよ風のように心地好い
私は、変わり果てた世界で
変わらぬものなどないと教えられた
だが
変わらぬ想いというものは在るようで
彼女が口ずさむ歌をきけば
かつての
青々とした世界を
今目前として
見ることができる
それは、壊された私の日常に建てられた
人々の栄光に当てられて
普段は見ることも叶わぬものなのだ
あぁ、なんとも言い難い
懐かしさよ
出来ることなら
その歌を
いつまでも
いつまでも
奏でて欲しいものだな・・・
彼女が居なくなったとしても
この時間は止まらない
星も、命の営みも全て
しゅは違えども
総ての命は
刻々と形を変え
一個の生命体のように揺れ動く
私もまた
その中のひとつなのだろう
空家になったこの家の横で
小さく角張った石になった彼女を
抱きかかえながら
私は、ゆっくりと
生きることを手放していった
満足ということだろうな・・・
―end―
by銀幻のキケロw