暫く、憂鬱な世界から出ていない
久しぶりにこの閉じられた世界という
部屋の中から
外の世界でも見てこようかな・・・
僕は、ぼんやりと眺めた天井に
おやすみと別れを告げた
風が心地いい・・・
ここは何処だろう
どこかの街の
どこかの市場だろうか
僕の身体をすり抜けていく
楽しそうな人々
真っ赤なレンガが
僕の下に所狭しと並び
人々の足元を支えている
周囲の家々も
レンガの作りのようだ
一体ここはどのへんなのだろう
僕は、一歩また一歩と足を進めた
賑やかな街並み
人々の声がこの町そのもののようだ
この輝きから見れば
そうでないと困る
ふと気がついた
人々の服装が
ずっと昔の欧州のモノのようだ
時を超えたのだろうか
僕は、街角のアコーディオン弾きの曲を聴きながら
考え込んだ
大通りから少し外れてみた
家々の影で
少し薄暗い
恥くれた連中の姿も見える
何も光ばかりではいようだ
僕は、いつの間にか隣を歩く猫と共に
静かな細道の散歩を楽しんだ
この街のお昼は静かだ
朝の賑やかさとは裏腹に
のんびりとした空気に包まれている
年経た夫婦は
ゆらゆらと頭を揺らし
幼子を抱えた御婦人は
心地よい子守唄を風にのせ
街に響かぜる
たまに駆け抜ける子供たちの声は
光のいたずらのように眩しい
あの荒んだ者たちでさえ
腕で瞳を覆い
無防備に鼾を掻いている
きっと
ほのかに漂う香ばしいパンの香りが
そうさせているに違いない
僕は、木漏れ日の椅子に腰掛けて
大きなあくびを一つ
天空の誰かへ見せた
あの空のむこう
うっすらと月が顔を覗かせている
静けさは足早に過ぎ去り
朝のような活気が戻ってきた
人々は今日の出来事を
酒を片手に
陽気に弱気に強気に
色々に出して
大声で叫ぶ
窓から聞こえる笑い声が温かい
窓からあふれる光が温かい
少しずつ闇に包まれていく街で
ポツポツと明かりが灯り出した
それはまるで夜空の星のよう
一つ
また・・・
一つと
闇が強くなるほどに輝きを増していった
そういえば
昼間の荒くれ連中はどうしているのだろう
まぁ、そのへんで野良猫の目のように
キラリと眼を光らせているに違いない
僕は、鼻で軽く笑って
街の外を目指した

誰もいない小高い丘へ
僕の足は自然とそこを目指した
街を一望できるこの丘は
月の光を浴びて
銀色の草原となっていた
夜空の星と地上の星を一望できる
異界の地
まるでそれは
神話に出てくる約束された大地のように
静かな微笑みを僕に向けてくる
僕は、その顔に耐えかねて問いかける
異界の地よ、祝福に包まれし大地よ
お前は、僕がここを訪れるのを知っていたのか
と・・・・
銀色の草原は何も答えない
只、サラサラと草を撫ででいる
赤子を愛でているように
優しく
優しく
撫でている
月の光でザワザワと波立つ水面のように見えた
僕は思う
この世のすべての母のようだと
誰もいないはずなのに
その中心で母と子が一緒に笑いあっている
あぁ、これは夢だ・・・
だが、ここまで心地よい夢が現実ならば
どれほど幸せなことだろう
僕は、居もしない親子を望みながら
ゆっくりと後退り
その夢の光景を惜しみながら
僕は、最後に背を向けて飛び立った
天井におはようと告げる
変化などない閉じられた世界
僕は、帰ってきた
でも、あれは夢幻の類ではない
現実だったのではないかと思う
なぜなら
彼女の歌っていた子守唄が
その夢を忘れるその時まで
耳の奥で響いていたからだ・・・
さぁ、今日が始まる
僕も、あの親子のように笑って過ごせるよう
頑張ろうか・・・