山人【ヤマウド】
霞む山陰に
静かに登りゆく
日の出を知らず
笹海の中を
飛び交う鳴き声と共に
泳ぐ
渡り鳥
しんわりと濡れる草木に
体を当てて
その美しき声に割って入る
山人よ
飛び交うさえずりさえも
お前たちの応否に
かき消され
かの鳥もあきれ果てているぞ
笹子取りに
驚いているぞ
静かな光を揺らし
佇む空気に波紋を描き
笑うお前たちに
すべての生き物が
ヒヤヒヤと驚いているぞ
山人よ
さぞ美味かろう
旨かろう
湧き出る清水を飲むかのごとく
吸い込む空気は
香り立つ碧の世界は
朝霧の収まらぬうちより
飛び込み
かぶりつく山の一品は・・・
飛び交う木霊たちだけが
知っている
味もなく
意味もない
漂っているだけに過ぎない
贅沢
その中に顔を突っ込んで
弾ける水しぶきを上げる
笹子を籠に入れながら
貪るように深呼吸
さぞ
うまかろう
しゃわしゃわと
降り注ぐ
ハルゼミの滝に打たれ
下る細道に
列をなし
喜びを胸に
沈黙を守る
ざわめく心を鎮め
ただ
目指すは
母の顔か
嫁の顔か・・・
したたる汗をいく度となく吹きとり
乱れ乱れる吐息と衣服を直し
ひたすらに
ひたすらに
木漏れ日を
分けて通りゆく山人
かごも胸も
さぞ
満ち足りた帰路だろうな・・・
疲れ果て
目前の大通りを眺め
まだ
朝露に濡れる石に腰掛ける
たかる
ヤブカに吹きかけるタバコの味は
どんなものだろうか
過ぎ行く仲間に訪ね
笑う声を響かせる
見せあっては
自慢話
幾人も
幾人も
同じことを繰り返し
笑い合う
光がいくつも柱を作り上げる
この森に
その喜びが溢れ
べつの喜びと重なり合って
調和する
それはきっと
この山のすべての生き物が
思っていることと
同じことを
山人も持っているからだ
感謝
その二文字の感情を
笹子取りを終えて
山へ命へ感謝する
言葉にしなくても
言葉に出さなくても
ただ、ただ
ありがとうと
念じ続けているからだ