怨怒
暗闇に、鳴り響いた重い太鼓の音
私は、気がつくとこの林の中を彷徨っていた
どうやってきたのかは、わからない
ただ、あるのはベットに横になったはず・・・
それだけだった。
ここは、どこだろう。
そして、私を揺らす、不安にさせるこの太鼓の音・・・
重く、重く、重く鳴る度に、私を縛っていった。
それでも、私は、重くなる体を起こし
音のするほうへ足を進めた
このくらい杉林・・・、
いったいどこまであるのか
検討もつかない
不意に、揺らめくものが私の目に飛び込んできた
(やった。明かりだ!)
私は、安堵した。足早にそこを目指す。
だが、いざ辿り付くと誰もいない
真ん中に、狂言の舞台のような床があり
その四方に私が見た光、松明がバチンバチンとうなり声をあげて
燃えていた
私との間には、不気味な光を帯びた水が敷き詰められていた
ふと我に還った。
【太鼓の音が目の前から体に伝わってくる!】
全身に、じわりじわりと冷たいものが攀じ登ってきた。
ゴクリ・・・、喉が妙に大きく響いた。
誰もいない、それなのに轟々と鳴り続ける太鼓の音
いったいこれはナンなのか!
奇怪な考えばかりが頭の中を通り過ぎた。
どぉん!!!
ひときわ大きな音が一面を振るわせた!!!
私の体が、びくっとのけぞる!
ひょろりと月が照らした!
汗が鋭く光る!!
その影に当てられた舞台の真ん中に
鬼の面をつけた半透明の何か!!
鈴を右手に、真槍を左手に持ち
じっとこちらを見ている!!
眼を外す事ができない!!
私をにらみつける鬼面。
やがて、動き出す・・
シャン・・・シャン・・・ゆっくりと舞いだした
シャン・・・シャン・・・シャン。
それは、今までの恐怖が嘘のように静まり
水の波紋のように心に響いた
やがてそれは、激しさを増してゆく・・・
太鼓の音も加わり
横笛の音も加わり
金属の皿がこすれるような音も加わり
お経のような暗い重声が加わり
徐々に、徐々に力強く、怪しく、激しく、美しく!!!
回って行く
ちらつきだす雨、あわせるかのように強まる風!
どこで聞きつけたのか地鳴りながら近づく雷!
私は、息をすることを忘れ
見入ってた・・・。
怪しくも、美しい舞を。
その舞に、時間がたつにつれ
異なる鬼面が増えていく
狂うように跳ね
狂うように舞う
どぉおおぉん!!
はっとした。
この演舞も終りかけたとき
また大きな太鼓が鳴り響いた
ぴたりと止まる演舞者
静かだ・・・・、
音も雨風もやみ
私と彼らの間に
銀色の月だけが漂っている
そして、ひとりひとり静かに舞いながら消えていった
最後の一人
一番最初の踊り手は
去り際に、大きく体を張り、ゆっくりとお辞儀をした
手を鬼面にかざしゆっくりとはずした
シラナイ女性だった
美しく、それでいて優しく微笑み
奥に消えていった
不思議だ、彼女は私に何を伝えたかったのだろう
いったい誰なのだろう。
そればかりが私の心に焼きついた
目覚める前もそのあとも・・・・
夢・・・、なのか、そうでないのか
私は、今でもはっきりと覚えているそれを
未だに夢と判断できていない・・・・
後書き:実話ですw