全く売れないそうだ。
担当編集者(例の奴)から電話で作戦会議をということで、出版社に出かけた。

担当が「私の立場はどうでも良いんですが、正直売れないと困るんですよ。」と言う。
ま、そりゃそうだ。立場はどうあれな。
「そこでまずは先生の名前を知ってもらうために、うちで出版してる本の雑誌で先生のコラムを連載させてもらうことにしました。このコラムで名前を売って欲しいので宜しくお願いします。」
オレはいつから先生になったんだろう?
「コラムはズバリ!‘人間の愚かさ‘をテーマにしました。どうです!?先生の作風にも合うし、なんてったってインパクトあるでしょ!!でもあんまり過激なことは書かないでくださいね。波風起こすと売れるものも売れなくなりますから。」
波風起こさないものが注目される訳ないとは思うが、ま、やってみるさ。
と、いうことで第1回は図書館で読んだ「バベルの塔の話」をテーマに選んだ。

人間たちの「神様」が、人間たちが「神様」に近づくために建てていたバベルの塔を壊し、「人間たちは力をあわせると大変なことをしでかす。」というので色々な言葉を作ってお互いに理解しあえないようにした。って話。
同じ言葉を使っている者同士でさえ理解しあえず、力を合わせられない人間に、なんで「神様」がわざわざそんなことをするだろう?
「神様」はただそうしたかっただけだと思う。
愚かな人間はその愚かさを認めたくないがゆえに、自分たちが愚かな理由を神の摂理であるという物語にしたのだ。
という内容のコラムだった。
このコラムは出版されると同時に人間の社会で論争の的となり、オレはすさまじくバッシングされた。
担当の奴は「だから波風立たないように気をつけてくださいと言ったじゃないですかぁ~。」と言った。

だがバッシングされたことでテレビから出演依頼があり、オレは一気に有名人になった。
当然本も売れに売れた。

そのうちにバッシングの嵐は過ぎ去り、「新進気鋭の作家という有名人」のオレが居た。
そのころになって担当がオレに言った。
「いや~先生!僕の作戦が大当たりでしたねぇ~。」

しつこいようだが彼は後々敏腕編集者と呼ばれるようになっていくのだった。