「このぼくがですか。このぼくが明智小五郎だとおっしゃるのですか。」
明智はすまして、いよいよへんなことをいうのです。
「きまっておるじゃないか。何をばかなことを……。」
「ハハハ……、ご老人、あなたこそ、どうかなすったんじゃありませんか。ここには明智なんて人間はいやしませんぜ。」
老人はそれを聞くと、ポカンと口をあけて、キツネにでもつままれたような顔をしました。あまりのことにきゅうには口もきけないのです。
「ご老人、あなたは以前に明智小五郎とお会いになったことがあるのですか。」
「会ったことはない。じゃが、写真を見てよく知っておりますわい。」
「写真?写真ではちと心ぼそいですねえ。その写真にぼくが似ているとでもおっしゃるのですか。」
「…………。」
「ご老人、あなたは、二十面相がどんな人物かということを、おわすれになっていたのですね。二十面相、ほら、あいつは変装の名人だったじゃありませんか。」
「そ、それじゃ、き、きさまは……。」
(p150-151より)
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ぎゃー、貴様、怪人二十面相だったか

ってなわけで、今回は怪人二十面相。
帯には「1億人のベストセラー」と書いてあり、その名に恥じるくらい多くの人は「怪人二十面相」や「明智小五郎」の名前を知っているし、映画化やテレビドラマ化されたりもしています。
しかし、その実、オリジナルの小説を読んだことがなく、今回初めて怪人二十面相と対決してみました。
もちろん、子供向け作品ということで、内容は大人がうなるような絶妙なトリックというのはありませんでしたが、しかしその読みやすい展開と、読者を煽る乱歩の筆は、大人でも十分楽しめます。
それにしても作者は、こんな作品も書くことが出来るわ、エログロナンセンスも書くことは出来るわ、すごいなぁと感心します

では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。
~1回目 2010.2.1~
さてさて、この作品のダイジェストを書いてみます。
1.羽柴壮太郎宅で怪人二十面相は宝石を盗み出す。
(その際、怪人二十面相は、羽柴壮太郎氏の息子、壮一に変装)
2.羽柴壮太郎宅で仏像を盗む。
(しかし、明智小五郎の弟子、小林君が逆に仏像に変装していたために失敗、宝石も戻る)
3.日下部邸にて、文化財級の美術品を盗み出す。
(その際、怪人二十面相は明智小五郎に変装)
4.明智小五郎が帰国、その直後に怪人二十面相と直接対決①
(その前に怪人二十面相は国立博物館の美術品を盗むことを予告しており、明智が疎ましかった)
(しかし、この勝負は引き分け)
5.怪人二十面相一味が明智小五郎を拉致、弟子の小林君は少年探偵団を結成し、明智の行方を追う。
6.国立博物館の美術品をそっくり盗む。
(その際、前日に模造品と置き換え、さらに怪人二十面相は北大路館長に変装)
7.明智の登場、事件全ての真相が発覚 = 怪人二十面相との直接対決②
(明智の計略で、拉致は明智が怪人のアジトに潜入するために仕組んだものだった)
8.逃げようとした怪人二十面相を、待ち構えていた少年探偵団が捕らえ、大団円

てな具合です。
全編に渡って怪人二十面相は変装しっぱなしで、物語が進むにつれ登場人物全員を、
「こいつ、もしかして怪人二十面相なんじゃないか
」と疑ってしまうという、かなりの疑心暗鬼状態に陥ります。
まさに乱歩の狙い通りといった感じですねぇ

しかしこの怪人二十面相、人を殺すことはしない、という稀代の犯罪者にしては、プライドにより一定の制約を自身に課しており、物語としては、この制約をつけることで、二十面相を負かすのは、知識や話術、計略によることになります。
そこが非常に面白い

その部分に制約がなかったら、おそらく明智も小林君も殺されているに違いありません。
怪人二十面相は、美術品を盗むことを専門にしていて、単なる窃盗魔や愉快犯ではないというところも面白いです。
それに、作者がことあるごとに
「読者諸君」、と語りかけてくれます。
これ、現代の作品にはあまりみられないものなので、レトロな感じを味わえると共に、自分も子どもに戻ったように、その展開にハラハラドキドキしてしまうのです。
この怪人二十面相は、シリーズものになっていくのですが、数時間で読めるし、明智・少年探偵団 VS 怪人二十面相 がまだまだ見たいので、なにか読むのに疲れてしまったら、続きを読んでみたいと思います。
ただ、もう内容が分かってしまい、作品の深みはそこでないので(子供向けだから仕方ありませんが)、読み返すかどうかは分かりませんねぇ

総合評価:★★★
読みやすさ:★★★★★
キャラ:★★★☆
読み返したい度:★
