戦争に突入したことはあるだろうか。領土を失ったことは? 戦争を勝ち抜く、あるいは敗北しないための鉄則は勝てない戦争をしないという一点に尽きると昔から知られている。しかし私たちが考えている戦争のイメージの外部から、ある日、核が飛来し、何が起こったのかわからぬうちに街が焼かれ、すでに占領されている、そういう、日が昇る前の一晩の出来事にすぎない出来事に対して鉄則も鉄則に忠実な私たちも無力である。
完全な論理性を保ってそこにある、勝てない戦をしないという条項は、こうした想定外の失陥、すなわちまさに敗北を象徴するだけの現実の状況を受け容れることができない。その完全な鉄則の下に自足した私たちは、決して負けることのないかわりに、決して負けを認めることもできない。完全に惨敗している街々の、いまだ爆発のにおいのたちこめる朝焼けを前にして、私たちはついにこう言わざるを得ない。「戦争など起きてはいない!」 しかしおそらくもう取り返すことのできない、かつて私たちのものであった領土は、そこにある賑やかさや、長く続く路地や、健康に拡大した言語活動やは、そのまま失われつづけている。そしてそこには新たな文化が流入し、既存のものと混ざり合って別の都市が形成されていく。
それを横目に、戦争が起きていたことも領土を失っていることをも認めぬ私たちの立場は徐々に不安定さを増し、決定的な暗い衝動が目の奥に浮かびあがってくる。自己を出ることができず、ひたすら内部で回転をつづける憎しみとも怒りとも呼べぬひたすら黒々と拡がってゆく黒雲の降らせる雨に私たちは日々うたれている。そして昼間と言えど日の差すこともなくなった、その国家の隅のほうで、ひたすら降りしきるだけの止むことのない雨のなかで、雨と涙とが見分けのつかなくなったその場所で、私たち独裁官は爆発的に融解しはじめる。私たちは、敗北している! こんなにも惨めに、敗北している! 敗北している! 敗北している!…… 領土を取り戻すことは、できない! できない! できない!…… かつて敵国の機構について、もし戦うことがあるとすれば、それは二度と再び立ち上がることのできなくなるよう完全に破壊されなければならない、と口々に断言し合い、鉄則に鉄則を重ねた私たちがいまや日の昇らぬ帝国の暗い端で雨滴に紛れ立ち尽している、自らの語った完全なる破壊に自ら呑まれながら。
そのことが雷撃につづく雷鳴のように自覚されたとき、胸に言い知れぬ喜悦があふれる。全球を覆う黒雲が、いまにも雨粒を落とすのを取り止めようとしながら、そのぎりぎりのところで注意深く私たちを眺めている。独裁官のある者は死に、ある者は逃亡し、ある者は剃髪した。自然のただなかにおかれた国家は、いまにも、その本当に絶対に戦争に敗北しない力の前に軽い響きを以てくずれ去ろうとしている。すべての不当な支配は終わらなければならない、自分の投書が届けられる。
戦争に負けてもいいし、領土を失ってもいい、ただ私たちにあるのは負けたくない、失いたくないという思いだけである、救済を救済するとでも言いたげな宣教師の声が聞こえる。「皆サン、ソレガ戦争ナノデスヨ。相手ダッテ勝テル戦イヲスルノデス。アナガタハ弱カッタ、否、コノ国ノ機構ハ弱カッタ、ソレガ露ワニナッタダケノコトデ、実際ナニモ変ワッテナドイナイノデハナイデスカ。将官ハ敗ケレバ死ナネバナラヌト皆サンハ仰ルデショウ、シカシアナタガタハ…… アナタガタハ将官デハナイ、マシテ……」
...
【青之驱魔师】03 UVER Battle Royal~桁外れmix~
