久々の投稿、京都サポのNです。
先日、Jリーグクラブの運命を左右する、Jリーグクラブライセンス制度についての発表がありました。
クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2018シーズン Jリーグクラブライセンス判定について【Jリーグ】:Jリーグ.jp
そしてこのライセンス判定に関して、SNS上で「なぜ大宮は15000人も入らないスタジアムで毎年J1ライセンスが貰えるのか」という投稿を目にしたので、今回はこの収容人数問題について掘り下げてみます。
●クラブライセンス制度
Jリーグクラブライセンスは、以前のハイブリッド芝の記事などでも触れた"Jリーグで戦う為の免許"的制度。場合によっては(債務超過時)J1で戦っていたクラブがいきなり翌年はJ3行きとなってしまう事もある制度です。
競技・施設・人事体制組織運営・法務・財政の5つの基準のもと、『J1ライセンス』『J2ライセンス』「J3ライセンス」が交付され、トップカテゴリーであるJ1に近いほど条件が厳しく設計されています。
J2で戦うにはJ2ライセンス以上のライセンス取得が前提です。JFLはJリーグと別物ですからライセンスは不要ですが、J3に参入するにはJ3以上のライセンスが必要になります。
例えば、Tifosi FCなるJリーグクラブがJ2で優勝したとします。しかしTifosi FCの使用するホームスタジアムの入場可能数は12000人で、J1ライセンスの施設基準内で達成必須項目となっている「入場可能数15000人以上」を満たしていません…
この場合、J1ライセンスの取得できませんので1部(=J1)への昇格はできません。翌シーズンに翌年もJ2でリーグ戦を戦う事となります。
以上がひとまずの説明ですが、とにかく「カテゴリーに応じたライセンスを取得できないと、昇格したり、同じカテゴリーに居続ける事ができない!」という事です。
●15000人の数え方
このようなクラブライセンス制度の中で、ファンやメディアから注目を浴びるのが施設基準と財務基準。そして今回取り上げるのは、冒頭で触れた通り、施設基準の中の入場可能数について。
まずはどういうルールなのか再確認しなければなりません。
2017年度のスタジアム検査要綱(PDF)を読むと、Jリーグがどのように観客席の数をカウントしているかがわかります。
J1ライセンス取得の為には、公称の「収容人数」などではなく以下の項目を満たした「入場可能数」が15000以上である必要があります。
①芝生席はカウントしない
②椅子席が10000席以上あること
③常設の飛び降り防止エリアの席数は含まない
④常設の緩衝地帯は席数に含まない
⑤見切れ席や常設の記者席・放送室席等は席数に含まない
⑥立ち見エリアは施設管理者と協議の上で入場可能な数とする
⑦新設および大規模改修を行うスタジアムの立ち見エリアは、1席の幅45cm以上、奥行きは80cm以上でなければならない
⑧車椅子1台分につき車椅子席1席とする
⑨車椅子のヘルパー席は常設かつ実際に使用されている数のみを席数に含める
⑩VIPゾーン等ラウンジ付きの席はテラスにある席のみ席数に含める
以上、10個の条件から入場可能数はカウントされます。
その為、キンチョウスタジアム(C大阪)のケースでは、入場可能数17892人・公称の収容人数19628人・セレッソ発表の収容人数18007人という3つの異なる数字が出てきたり。
さてさて、ここからが本番。
日頃「ライセンスどうなってんの?」などと言われるNACK5スタジアム(大宮)と日立柏サッカー場(柏)の入場可能数ですが、Jリーグ公式HPではそれぞれ大宮15491人、柏15109人となっており、J1ライセンス取得に至っています。
詳しく見ていきましょう。
まずはじめに日立台の方から。公式HPの座席表を見ると…
SS席・・・2010席
ビジター指定席・・・900席
MR席・・・1540席
ヨネックスシート・・・60席
メインスタンド車椅子席・・・13席(※ここでは車椅子分のみカウント)
SD席・・・581席
SF席・・・1432席
AL席・・・1609席
AR席・・・1497席
バックスタンド車椅子席・・・13席(※ここでは車椅子分のみカウント)
柏熱地帯・・・2324席+立ち見エリア
ビジター自由席・・・立ち見エリア
各スタンド合計・・・椅子席11979席+立ち見エリア
となり、立ち見エリア部分に関しては、現在のビジター自由席にあたるゾーンの発券枚数は過去の議事録から考えるにおよそ2000人文。
そして柏熱地帯の立ち見エリアが縦9列。横は2F座席部分と同じ172列と仮定して考えると1548人分。
11979+およそ2000+およそ1500=15479人分となりますから、入場可能数15109人は決しておかしな数字ではないでしょう(当たり前の話ですが)
実際、Jリーグ参入直後には15000人以上を、また改修後の現在の日立台でも2014年の開幕戦で入場者数14623人を記録しています。
次にNACK5スタジアム。
公式HPによると、
バックスタンド・・・2772席
メインスタンド・・・2740席
アウェイ席側・・・4000席(内2000席立ち見エリア)
ホーム席側・・・5708席(内3200席立ち見エリア)
=各スタンド合計15220人(内5200人分立ち見エリア)
椅子席の数が10020とは本当にギリギリの規模。
クラブの公式発表によると「消防法に基づいた1㎡に5人計算」で立ち見エリアの収容人数が出されているが、実際には1㎡に5人を入れるような運営は危険。緩衝地帯なども加味し、12715人という自主定員を設けてチケットを販売されています。
また、同じく立ち見エリアが設けてある正田醤油スタ(群馬)
は、メインスタンドとバックスタンドで約11000人を収容でき、入場可能数15190人。
BMWスタジアム平塚(湘南)は今年増席したこともあり、入場可能数15732人です。
●間に合った者と間に合わなかった者
法律的には15000人を入れても問題ないし、物理的にも実現可能かもしれないが、安全性等を考えると現実には15000人を入れる事が不可能と言っていいNACK5スタジアム。
一方、水戸ホーリーホックの本拠地ケーズデンキスタジアムや町田の本拠地町田市陸(通称野津田)は、収容人数がそれぞれ12000人と10600人。
「自主定員も設けていて現実的には不可能。でもJ1ライセンスが交付される」というのが心情的に気に食わない部分もあるのかもしれませんが、大宮(ら)が認められているのには理由があります。
それが法令不遡及の原則。
法律は施行されてはじめて有効になるのであり、その後(時間軸で言うと)未来に向かって有効であり続ける。だから過去の出来事に対し遡って「違法です!」と取り締まるのはナシ!
っていうやつ(法学部じゃないので細かい間違いはご愛敬、、笑)
ここ近年のスタジアム改修等に関する動きを時系列でまとめると、
2007年・・・NACK5スタジアムが現在の仕様に改修終了
2010年・・・キンチョウスタジアムの第一期改修終了
2012年・・・柏サッカー場が柏熱地帯の増設等改修終了
2013年・・・ヤマハスタジアムがゴール裏の入れ替えおよび新ホームゴール裏の拡張&座席化改修完了
2013年・・・キンチョウスタジアム第二期改修でアウェイ自由席の座席化とホームゴール裏拡張
2013年・・・正田醤油スタが立見席を設けるなど改修終了
===厳格化したスタジアム基準適用===
2013年・・・設計に着手した青森県立陸上競技場が途中で基準未達成と判断
2014年・・・水戸市がケーズデンキスタジアムの拡張を計画するも、基準が厳格化した為用地取得が必要になり延期(現在も延期中で新聞報道では早くとも2022年竣工見通し)
Jリーグは13年2月、J1、J2の試合開催のためのスタジアム要項を変更。屋根で覆う観客席の割合を「できるだけ多く」から、新しく造られる競技場については「全て」に改めた -河北新聞2014/3/7
市は当初、両ゴール裏の芝生席を立ち見席に改修して対応する計画だった。しかし、市によると、消防法に基づいて定めた席の面積に関する基準(1平方メートル当たり5人)が、昨年10月にJリーグが示した内規(1人当たり0.36平方メートル)に適合しなくなった -読売新聞水戸版2014/9/30
2015年・・・国体用栃木県総陸上競技場基本設計案が報道される。J1開催可能。
2016年・・・Jリーグが滋賀国体用の県彦根陸改修計画にライセンス認可せず
国体仕様の陸上競技場はビジネスにならない。地域性を踏まえたサッカースタジアムをあらためて考えてほしい -京都新聞2016/4/8
2016年・・・Jリーグ実行委員会にて新規参入クラブのサッカースタジアム(非陸上競技場)構想義務化議論
要約すれば「今後において百年構想クラブ入りを希望およびJFLからJ3入りするクラブは、サッカー専用スタジアムの構想があることを前提とする」となる起案 -フットボールチャンネルweb記事
2017年・・・維新公園陸上競技場が立ち見エリア増設でJ1規模に改修終了
2017年・・・川崎市が等々力陸上競技場第二期整備方針(35000人規模への改修)を公表
2017年・・・町田市が野津田陸上競技場の改修計画(基本設計)を進める
という事で、2013年からは改修時により快適な観戦環境に作り変えなければならないよう規定が厳格化したが、2012年当時はまだそのような文言がなかったのです。
その為、2012年時点で存在しJリーグ側の許可を得られていたスタジアムと、竣工はまだなものの2012年時点で着工していたスタジアムは厳格化前の基準が適用されていてグレーに見えていてもセーフなのです。
一方、水戸は基本計画策定に入った前年に基準が変わった為、新基準に適応せざるを得なくなってしまい今に至っています。
なお、時系列の中に組み込んでいるように、栃木や等々力に野津田といった「既存施設の改修計画」「既存クラブの陸上競技場への移転・継続利用」はリーグ側から認可されるのに、青森県・滋賀県はJリーグクラブ本拠地化の可能性自体がなくなった(※その後青森は八戸市がJ3規模スタジアムを整備)例もあります。
●結論
という事で、
Q.「なぜ大宮は15000人も入らないスタジアムで毎年J1ライセンスが貰えるのか」に答えを出すならば、A.「法令不遡及の原則のもと、厳格化以前の基準が適用されているから」が一番最適かと思われます。(記事を書く前から、私を含めた殆どの人が予想していた答えな気が…)
ただし、NACK5スタジアムが新たに大規模改修を行う際は現在の基準に適した形で改修される事でしょう。
また、少し話がそれますが、「ならどうすれば水戸がJ1ライセンスを取得できるか?」というお話をすると、ケーズデンキスタジアムを使用する水戸ホーリーホックにJ1ライセンスが下りる可能性は現状(最低あと5年もかかるので)極めて低く、新スタジアム整備への動きを含めた抜本的な解決策が必要かと思われます。
とは言え、水戸のようにJ1規模のスタジアムが欲しいクラブがJ1~JFL間に数多あるのに対し、実際に自前で資金調達してスタジアムを建設できるクラブは限りなく0に等しいのが現状。過去の事例だけで判断すると、J1ライセンスが取得できる15000人収容の全面屋根付きサッカースタジアム建設には60~100億が必要です。
そこで考えるべきなのが行政を動かす為の具体性。
やはりコストが障壁になってきますから、「どうやって資金調達するか?」と「もっと建設コストを削減できないか?」の2点。
まず資金調達面は、未来投資会議にて安倍総理が「スタジアム・アリーナをスポーツ観戦だけでなく、市民スポーツ大会、コンサート、物産展などが開催され多様な世代が集う地域の交流拠点に生まれ変わらせてまいります。その際、民間の投資や知恵を呼び込み魅力を高める方針で取り組んでいきたいと思います。自治体や地元企業を巻き込んだ地域ぐるみの取組を後押しします。そのため法律、予算や税制を総動員し、こうした拠点を2025年までに20か所整備します」と公言するなど、これまで行われた資金調達方法以外の選択肢が今後増えていくとみられます。
一方の建設コスト削減については、梓設計&GLイベントによるセミ・パーマネント工法を探ったり、実際に鉄骨製のスタンドが成り立ってる日立台を探ったり(レイソルさんはもう少し情報を公開してください)、両ゴール裏を立ち見各2500席にするなど極限までコストを絞った最低限の"モデル"ならいくらになるのか?だとか色々ネタがあるところ。
これに関してはJリーグが公式でやるか、宇都宮さん辺りが書いてくださると知見も広まると思うのですが……?
ではまた
◎検査要綱
2017年版 https://www.jleague.jp/docs/aboutj/regulation/2017/23.pdf
2016年版 https://www.jleague.jp/docs/aboutj/regulation/2016/24.pdf
2015年版 https://www.jleague.jp/docs/aboutj/regulation/24.pdf
2014年版 https://www.jleague.jp/img/about/management/2014kiyakukitei/23.pdf
2011~2013年版は見つけられませんでした!ご存知の方は是非コメントを
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