club3°  どうでもいいや 

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昨日、健康診断に行った際少しだけ早く最寄りの駅に着き30分ほど空き時間があった。



そんな中ふと「1000円カット」的なものが目に留まった。


普段カットしてもらっている美容室の大体4分の1ほどの値段。

恐ろしい価格破壊。



んー。怖すぎるね。


しかし時として好奇心に勝るものはない。

どんどんと興味が湧いてきた。





ここしばらく忙しすぎて髪を切れていない事と30分という絶妙な時間の余り方、それにしばらくライヴの予定もなく人に観られる予定も無い事を理由に勢いで入店。




するとそこには。





お母さんがいた。




誰のとかじゃない。




「日本を代表するみんなのお母さん」みたいな人が待ち構えていた。



「いらっしゃーい」



お母さんは優しい声で言う。




さあ、もう逃げられない。





しかし逃げる気もない。






もう覚悟は決まっているのだから。





まず券売機でチケットを購入しお母さんに渡す。




そしてカットが始まる。





「どうしますー?」





とにかく優しい口調でお母さんが俺に聞いてくる。






「あ、じゃあ前髪を目にかからないくらいで後ろはもう刈ってしまっていいです。サイドは耳に半分かかるくらいで」みたいな感じで割と適切にお願いしてみた。




はーい。とお母さん。




始まった。





まず驚いたのは。





は、早い。



とにかく早い。



なんだろう。野菜のみじん切りかの如く俺の髪をバシバシ落としていく。今までの美容師さんが普通自動車だとしたらお母さんは、もう新幹線だ。



いっそもうこのままどこへでも連れて行ってくれ、と思いつつ鏡越しでお母さんのハイパーテクを観察していると。



うわ、もう見てない。


お母さんくらいのハイパーテクになると俺の頭も髪も見ずにカットする時間がある事が発覚した。



すげえ。



すげえよ。





そしてまたしても驚ろきの瞬間は続く。




手先やハサミを動かすのではなく、なんかもうお母さん自身がめちゃくちゃぐるぐる周っている。説明が難しいんだけれど「下手な人がやるマリオカート」並に身体全体を動かしてカットに勤しんで下さっている。





更に優しさも半端ない。


お母さんは聞いてくれた。




「ここの長さ合わせちゃっていいんですよねー」ともみあげを掴みながら。




え。




基本もみあげの長さって合わせるものではないだろうか。



最初に「前髪を目にかからないくらいで後ろはもう刈ってしまっていいです。サイドは耳に半分かかるくらいで」とお願いしたと思うんだけれど。


いや。


あえてだ。


きっと、あえてお母さんはここでもみあげの長さだけアシンメトリー的な変化をつけようとしてくれている。


もしかするとお母さんは「生ぬるい髪型してんじゃねえよこのやろう、ちんちんみてーな髪型しやがって」




と俺の髪型に喝を入れていたのかもしれない。



ありがとう、お母さん。




すごいよ、お母さん。



だからこそ俺は心を込めて言った。




「あ、もみあげは合わせて下さい」



すると優しい声で、とても小さな声で、しかし確実に聞こえる声でお母さんは言った。




「むずかしいわあー」





えええええ。





そして。



「エノキダケにあこがれすぎた男」みたいなカットに仕上がった髪を掃除機みたいなので最後にぼわぼわすと吸われつつ、ほんの少しだけエノキあこがれ男はそっと泣いた。



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