思わずね、
「で、おまえら、しめし合わせて来たんか」
聞いてしまい ましたよ。
ほんとうは、C さんの 学校が
冬休み 入りする 22日の
月曜日に いつもの とおり
Aさんが、帰省、というより
Cさん 置いて 逃げ帰る ことに
なって いたそう なんだけど、
今年は めずらしく ダンナが
クリスマス ケーキを 予約
して くれて いたとかで
急遽、イブ明けの 25日
水曜日に、Cさん 置きに
くるって ことに なって
いた らしいのね?
で、当日。
昼過ぎ ぐらいかなあ、な~んか
ヨメさん いそいそ 掃除とか
しはじめて、まあ これに
関しては、Aさん Bさん
たちも そうなん だけど
C さんも どこか すこし
アレルギー 体質っ気が
あるよう なんで もっと
C さんに あそびに 来て
ほしいなら ふだんから もう
ちょっとずつ、片付け して
掃除も しておけよ って
ヨメ さんには 常から
こぼして いたりは するんだ
けれど、そんな、切羽 つまった
当日に あわてて やって
みた ところで、いくらも
きれいに なんぞ ならんだろう
って 思って こそ いた けれど、
いざ Cさん 達の 来るって
当日に わざわざ 気分の
わるく なること 言う
必要も ないかと 黙って
いたら ことは なく、
まさしく 急遽
Bさん までもが 彼女さん
つれて 顔 出したい とかで。
いやあ、うちの ヨメさんね、
いわゆる
‘片付けられない女’
なんですよ。
物品 とか だけじゃなく
わたぼこり とか
こぼした 水 なんかもね。
これも もう むかしっから
なんだけど 当人 ほんとに
「きたない」 とか 「置きっぱなし」
とか 「積んでるだけ」 とかが
感覚と して わかんないん
だって。
しかも 言う ことが
ふるってて、つい 最近に
なるまで 自分が そんな
‘片付けられない女’ だって
ことに 本人 まったく
気づいて なかった とかで。
「あたしのまわり、なんでいっつも片付かへんのやろなあとは、まえからすこしは思っとったんやけど」
「……おれとか子らが片付けろって言うたびに、『クチうるさいなあ』て、思っとっただけか?」
「そうそう」
そうそうじゃ
ねえよ。
今朝も ほこり溜まりと なってた
ネコの エサ場所 あたりの
あまりの きたなさに もうすぐ
正月 だって いうのに
せめて エサ場 ぐらい~って
こっそり 拭いて おいたり
したんだ けれど、そんな
ヨメ さんが 急に ばたばた
しはじめて とつぜん 掃除機
とか かけ だしたり しはじめ
たんで、そんな 付け焼刃 程度で
C さんの アレルギーっ気が
おさまる もんかい って
思って いたら
「Bさんも彼女ちゃん、つれて来るって言うもんで」
ああ、
そういう ことねー って。
なるほど オンナ 同士って
なにかと 大変ねー、などと
思いつつ いつもの とおり
ならば なおさら 普段から
きれいに しとけよな、などと
思う だけで あくま でも
クチには 出さず いつもの
休日の ごとく こたつで
ギター 弾いたり ぐだぐだ
スマホ さわったり して
いたら
「婚姻届けもきょう出してきたもんで、その報告もついでにやってー」
ああ、そう いえば、1週間ほど
まえに 婚姻 届けの 様式が
どうの 手続きが こうの
本籍が なんのと ヨメさん
聞いては きてたなあ、なんて
ぼんやり 思い 出したり
して いたんだ けれど、
……はあ?
「……彼女ちゃん、うちの苗字になるってか」
「そうそう」
そうそう じゃ
ねえよ。
いやねえ、なさけない 話、
へっぽこさん、左足の ケガから
血流 わるく しちゃって
いるから この夏の 猛暑と
いきなりの 寒波とで いつにも
増して 体調 おかしくて
急に フラついたり しがちに
なって きているし、そのうち
両家で いち度 会いましょう、
な~んて 話も してたん
だけど 双方 家が 離れて
いるため みな それぞれに
日程 あわず のびのびに
なっても いたんで ほんと
マッジで 御両家 同士
まっっったく 顔も 知らない
まま なのね。
さすがに ヨメさん たちは
なん度か 顔合わせ ぐらいは
したこと あるそう なんだけど、
お恥ずかしい 話、ほんっと、
不調法 きわまれりで。
「なんや、あれか、そしたら、ふつつかものですが~ってやつか」
「そうそう」
いや だから
そうそうじゃ
ねえよ。
まさしく ‘片付けられない女’ 健在で
そもそも ヨメさん 子らの
ことに 関しては むかしっから
連絡も 相談も 一切 なしで
なぜだか 平気で ひとり
ひょいひょい もの事 決めて
進めちゃう わりには 手詰まりに
なって にっちも さっちも
いかなく なってから、じつは
これこれ こうこうで いま
こうなって いるんだ けれど~
って 示談屋に もの頼むが
ごとく 言いに くるんで 毎回
それもう どうにも ならんや
ないか なんで もっと はよ
言わんのやと 都度つど 怒らなきゃ
ならいない ほど なんだけど
ほんと へっぽこさん、うちの
ことに 関しては 見事に
ほったら かしに されて
いるのね。
サイフも 家の 実権も
握ってる ヨメ さんと
AさんBさん 連合 対
父親 へっぽこさん みたいな。
手遅れになるまえに 言え とは
ほんと 毎回
言って るんだけど。
っても まあ、AさんBさん
には 「ひととしての基本」
みたいな もの ぐらいは
一緒に 暮らした それぞれ
との 20年 ほどの あいだに
しっかり 叩き 込んでは
ある つもり なんで まあ、
あとは もう
自分で 決めろと。
もちろん、失敗 したら
自分の 責任。
だってさあ、
自分の
人生じゃんね。
それが 成功 するも しないも
そう判断 した 自分の 責任。
もちろん、助けて ほしけりゃ
できる限りの ことは して
やるし なやみ事 なんかが
あるなら いくらでも 助言は
してやる けれど
決めるのは おまえ
みたいなね。
いろいろ 理由を つけては
無作法 者で 申し訳ない、
くれぐれも お父さんお母さんに
よろしく 言っといて~ って
ところで 新婚さん たちは
帰って いきました。
まあ べつに
聞かれない かぎり
こっちから はなす ような
ことも
とくに ないしさあ。
「へええ、うちの苗字になるんや」
「はい、よろしくお願いします」
……え、それだけ?
みたいな。
お互いに。
「腹減ったで、なんか食べて帰りたいんやけど、なんかある?」
「ああ、そういやこいつも、Bさんとおんなじ職場での社内結婚やから、年下やけどそういう意味では先輩でもあるし、下でなんぞ食いながら話でも聞いてみたら。」
こういう 場合 わけ知り
顔の おっさんが なにかに
つけて ヘタに 勇んで
しゃべくり たたくより、
女同士 あたりの 方が
なにかと 話は 弾むかと
思い、実姉な だけに そもそも
B さんの お嫁ちゃんに
興味 津々 ではあった A
さんに あとを まかせる
カタチを とりつつ 階下へと
いざない、へっぽこ さんは
またひとり、二階の こたつに
陣取って 日が暮れて きたなあ、
なんて 見るとも なしに
ぼんやり 窓から 外 なんぞに
目をやり ながら ギター
ぺろぺろ 鳴らしつつ、ときおり
階下から 聞こえて くる
あかるい 笑い声に みょうな
さみしさを おぼえたりで。
芸人の
小峠 だったかな?
以前 やっぱり 兄弟姉妹と
帰省時期が 偶然 かさなって
ひさびさに 実家に 家族
全員が あつまった とき、
ふいに 父親が これで もう
みんなが この家に 集まる日
なんてのも 最後かも しれんな、
と ぽつりと つぶやいたのを
耳にして、家を 出て、こうして
ひと前で いっぱし 気取れる
ぐらいには なれたけど じつは
その分 親不孝 かさねて きて
いたんだなあ って この歳に
なって あの 親父の ひと言で
はじめて 気がついて、なんか、
申し訳ない 気持ちで いっぱいに
なった、ってなことを なんかの
番組で 言って たんだけど、
やっぱ 家って
そうした もの なのかも
しれないねえ。
小峠の 親父さん、
「これでもう、思い残すことはない」
とも
言って いたんだ そうですわ。
げに めでたくも あり
めでたくも なし。
「気ぃつけて帰れぃ~」
冷えた 寒空の 下に 暗闇が
忍びよる
ふと おもてから 元気な
ヨメ さんの 声がする。
はじまる もの なのか
終わる ものなのか
きょうも また
冬の 日が暮れる。