新宿という街は、いつ見ても、皆忙しそうだ。
セカセカと急ぎ足で歩く人たち。
誰も彼もが、何かに追われているような、そんな気さえする。
ビルの合間から上を見上げると、日本中どこでも繋がっている青空が見えた。
アタシ、白石 夏希 27歳。
地元・長野の大学を出て、東京の広告代理店に就職してから早5年。
都会には慣れたけれど、やっぱり時々、地元長野が恋しくなったりする。
「ぅわ、もうこんな時間....
」
資料を届けにお使いに出た帰り。
ドトールコーヒーで大量のコーヒー豆を買って、ヒーヒー言いながら帰る途中。
時計を見ながらアタシは、思わずつぶやいた。
今日は花の金曜日。
東京で知り合ってからずっと親友してもらっている、実花と彩芽に合コンに誘われてるのだ。
合コンってホントはとっても苦手。
今までも2人に誘われて、何度か参加してきたけれど、何回参加してもやっぱり慣れない。
「急がなきゃ」
コーヒーの袋を持ち直して、急ぎ足でまた歩き出した時。
ドンッッッ!!
勢い良く前から来た人とぶつかってしまった。
「うわっっ!!」
「きゃっっ!!」
アタシは周りに散らばるコーヒーの袋を慌てて拾い集める。
「大丈夫?!」
ぶつかった相手が、心配そうにアタシの顔を覗き込む。
スーツを着た爽やかなサラリーマン。
年はアタシと一緒位かな?
「ちゃんと、前見て歩いてるんですか?」
早く会社に戻りたいのと、コーヒーをぶちまけた恥ずかしさから、つい口調が気になる。
「そっちこそ。ちゃんと前向いてたら避けれるはずだろ」
「....」
思わぬ反論に、アタシは言い返せない。
と、アタシの目の前にペンダントのチェーンが落ちているのに気づく。
「あれ?」
慌てて自分の胸元を触る。
ない。
お気に入りのペンダント。
学生の頃からずっとつけてる、大切なペンダント。
天使の羽をモチーフにした可愛いペンダントトップ。
それがない。
慌てて周りをキョロキョロしてみるも、ドコにも落ちてない。
「ウソ...どこ行っちゃったの...?」
「何か無くした?」
アタシはペンダントのチェーンを、彼の目の前まで持ち上げてみた。
「あぁ、なんだ。ペンダントか」
「何だ?何だってどういうことょ」
彼が発した一言に、アタシは思わずきつく反論してしまう。
「コンタクトとか、大事なフロッピーとか、そういうのかと思ったら」
「大事ょ」
アタシは立ち上がって、言ってしまった。
「どんなものであれ、その人にとって思いいれのあるものだったら、それはすごく大切なもの。」
アタシはじっと彼を見下ろした。
そうだょ。
それがペンダントトップだろうと、フロッピーだろうと。
大切なものだったら、代わりはない。
さらに彼を問い詰めようと一歩踏み出した時。
フッと目の前にある大きな時計が目に入った。
「うっそ、もうこんな時間!」
急いで会社に戻らなきゃ!
「拾ってくれてありがと。じゃあ、これで」
まだ地面にうずくまってる彼を見下ろしたまま、アタシは足早にその場を立ち去った。