
1R。
いつもの奇襲ではない。 俺様は自ら前へ出た。
だが相手は、さすがエリートボクサー。 こちらの動きを冷静に見ながら、まるで軽くあしらうように戦っている。
打っては離れる。
ヒット・アンド・アウェイ。
「上手い……」
そう思わずにはいられなかった。
パンチが当たらない。
それでも俺様は手を出し続ける。
相手のパンチをもらうたびに、セコンドや応援席から声が飛ぶ。
「効いてるぞ!」
その声が耳に入るたび、俺様の苛立ちは増していった。
だが、その時――
1R終了のゴング。
コーナーへ戻る。
手数は出している。 それでもスタミナは切れていない。
調子は悪くない。
ただ空回りしているだけだ。
セコンドの指示が飛ぶ。
「もっと前に出ろ!」
そして2Rのゴングが鳴った。
再び前進あるのみ。
相手はアウトボクシングを続けながらも、さらに手数を増やしてきた。
タイミングよく連打をまとめてくる。
倒れはしなかった。
だが足がふらつく。
スタンディングダウン。
再開後も必死に手を出し続けた。
しかし相手のパンチは正確だった。
次々と的確にヒットする。
そして――
「ストップ!」
レフェリーの声。
まだできる。
そうアピールした。
だが認められない。
TKO負けだった。
そのエリート選手は、その後も勝ち進み、東日本新人王となった。
しかし全日本新人王戦を前に、練習中の怪我で欠場。
そのままリングから姿を消し、引退したと聞いた。
ところが――。
あれから十数年後。
俺様は彼と再会した。
なんと彼は再びプロのリングに立っていたのである。
ボクシングの年齢制限改正を機に現役復帰。
そして復帰戦で見事なKO勝利を飾った。
縁とは不思議なものだ。
かつてリングで拳を交えた相手。
その後、俺様は彼のスパーリングパートナーも務めた。
今では拳友。
良き友人として交流が続いている。
リングの上では敵だった。
だが時を経て、互いを認め合う仲になった。
これもまた、ボクシングがくれた財産なのだろう。
See you again.