かきくらし | 俳諧伝授

かきくらし

時雨の「木の葉を色付かせる」を詠んだ和歌をご紹介します。


(詞書)時雨し侍りける日


かきくらし時雨るる空をながめつつ
     思ひこそやれ神なびの森  紀貫之(拾遺集)


読み
かきくらししぐるるそらをながめつつ
     おもいこそやれかむなびのもり


かき‐くら・す【掻き暗す】
《他四》
①空を暗くする。かききらす。古今和歌集恋「―・しふる白雪の下ぎえに」
②心を暗くする。悲しみにくれる。源氏物語葵「ただ―・す心地し侍れば」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]


かむ‐なび【神名備・神南備】
神の鎮座する山や森。神社の森。みもろ。祝詞、神賀詞「大三輪の―」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]


かむなび‐やま【神南備山】
神の鎮座する山の意。出雲風土記に4ヵ所見えるほか、次のものが有名。
①奈良県生駒郡斑鳩(いかるが)町の三室山。紅葉・時雨の名所。(歌枕)
②奈良県高市郡明日香村の3諸山。(歌枕)
③京都府綴喜(つづき)郡田辺町薪にある甘南備山。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]


意訳すれば


空を暗くして時雨の降る空を眺めつつ、神なびの森を思いやっていることであるよ。


くらいかな。


貫之は、木の葉を色付かせるという時雨の空を眺め眺めしては、紅葉・時雨の名所三室山の紅葉も色付いて、さぞ美しいことだろうなぁ、と、思いを馳せているんでしょうね。


もう一首、時雨の「木の葉を色付かせる」「しぐれの空のさだめなきを世のつねならぬ心によそへ」を詠った和歌を。


今はとてわが身時雨にふりぬれば
    言の葉さへにうつろひにけり  小野小町(古今集)


読み
いまはとてわがみしぐれにふりぬれば
      ことのはさえにうつろいにけり


この歌は「降り」に「古り」を、「言の葉」に「葉」を掛けていて、


今はもう、時雨が降ると色付く草木のように私の身も涙に濡れて古びてしまったので、(あなたが以前約束して下さった)言の葉さえも変わってしまったのですね。


くらいでしょうか。


「女心ですねぇ」なんて云ったら、ブーイングでしょうか。


こうして詠み継がれて‥「時雨」という語に「詩的イメージ」が付加されて行ったんでしょうね。