ふる中へ
ふる中へ降りこむ音や小夜しぐれ 五明
読み
ふるなかへふりこむおとやさよしぐれ
季節は「小夜しぐれ」で冬。
吉川五明(きっかわ・ごめい)(1731~1803)の俳諧の発句です。
夜の時雨ですね。
夜の時雨を「音」の様子だけで表現しています。
詞の上で具象的なことはひと言も云ってないのですが、立ち現れる世界はきわめて具象的です。
この「音」木を打つ質感を持ってませんか?
木と云っても立木ばかりじゃありませんよ、材木-木を素材として作られた塀だとか壁だとか屋根だとか‥。
「板屋の時雨」は多くの和歌に詠まれてますから、時雨の本意の一つです。
世に経るは苦しきものを槇の屋に
やすくも過ぐる初時雨かな 二条院讃岐(にじょういん・さぬき)
とかね。
時雨は、草木を色付かせる、とも思われていました。
上掲句のように「音」の様子だけ詠んでも、その音は自ずから木-木材を打つ音なんですね。
「ふる中へ」これは「小夜しぐれ」という状況の全体でしょうね。
木々の木の葉を打つ音、板屋根や板塀、板壁を打つ音です。
「降りこむ音」これは壁の開口部や壁の隙間から文字通り家の中へ降りこむ音です。
時雨は風を伴いますから、風の音、風によって動かされている物の音なんかも聞こえてきます。
これでもう、けっこう具象的ですよね。
なんか情景が浮かびませんか?
すきま風とか、すきま風によって揺れる灯りだとか、そこまで立ち現れると、室内の様子さえ見えてきます。
五明は秋田の人なんですが、この句の評判は都まで聞こえ、二条右大臣治孝に賞賛され、菅原中納言染筆の「小夜庵」(「小夜庵」は五明の別号でもある)の扁額を賜ったそうです。
いま読んでも、名句だと思いますね 私は。