しら木の弓に
あき風やしら木の弓に弦はらん 去来
読み
あきかぜやしらきのゆみにつるはらん
季は「あき風」で秋。
向井去来(むかい・きょらい)(1651~1704)の発句である。
「しら木の弓」
しらき‐ゆみ【白木弓】
漆を塗らない白木のままの弓。しらき。太平記17「白木の弓のほこ短かには見えけれども」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]
「ん」意志・決意の助動詞
「はらん」(張らん)→「張ろう」
前にお届けした森川許六
十団子も小粒になりぬ秋の風
の「秋の風」は「寂しい」であったが、この句の「あき風」は「爽(さわや)か」(「爽か」も秋の季語)である。
秋の訪れを感じさせる爽かな風に、しばらくぶりの弓の練習を思い立ち、白木の弓に弦を張ろう、というのである。
この句の気分は、現代人たる我々もよく解るのではないだろうか。
「体育の日」が近づくと「スポーツの秋」という言葉を、よく耳にするではないか。
爽やかな風の中、思い切り身体を動かすのは、秋ならではの快感のひとつであろう。
以下は蛇足。
この句の切字は「や」で、「かさね描き」の働きをしている。
上五「秋風(や)」の持つ爽かさと、中七下五「しら木の弓に弦はらん」が、かさね描きされ、晴々とした澄明(ちょうめい)な世界を出現させてくれる。
助動詞「ん」も、力強く実に心地よく響く。
「白木の弓」というのが、飾り気が無くてまた良い。
五行説では四季に、青春(せいしゅん)・朱夏(しゅか)・素秋(そしゅう)・玄冬(げんとう)、というふうに色を配しているが、素秋の素は白、つまり秋の色は白なのである。
このあたりも(去来の身につけていたであろう教養を思えば)「白木の弓」の隠し味として、効いているのではないかと思う。
高潔で篤実な、去来の人格そのままの佳句である。