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ウーゴズ・ブログ|kumaのブログ(アート編)

美術館向けの展覧会企画に携わってきたKuma氏が語るアートのつれづれ。

     イヌメ作品  技法的考察(モノタイプ)

  
先日 ご紹介したイヌメさんのアニメーション《Chicken in a tree》にはちょっとしたエピソードがあります。イヌメさんから直接教えてもらった話です。

 昨年、彼のところにベルギーの大手出版社から、絵本の絵を描いて欲しいとの話が舞い込みました。彼のボイルド・エッグをみつめるニワトリの絵に啓発された童話作家が書いたストーリーに絵を描いて欲しいというものでした。そこで、彼は60枚のドローイングを仕上げたのですが、その出版社は彼の絵がディック・ブルーナのキャラクターに似すぎていると判断して、この話は流れてしまいました。
 そこで、イヌメさんはこれらのドローイングを使い、ミュージシャンとしての過去を生かして、オリジナルの歌詞をつけて短いアニメーションを作ったということです。


(閑話休題)
 ハンス・イヌメの作品の最大の特徴は、様々な動物たちの輪郭を描く黒く太い描線にあります。よく見ると、この黒く太い線は一様な太さではなく微妙な肥痩を持った線です。この一様でないというところが、イヌメの作品ではとても大切です。ここにイヌメ作品の本質があるのです。

 一様な線で簡略化された動物たちを描いてしまうと、それはいわゆるキャラクターとなってしまいます。同じオランダ人の人気グラフィック・デザイナー、ディック・ブルーナの描くミッフィーちゃんを思い出していただくと分かりやすいと思います。ミッフィーちゃんを表す線はあくまでもミッフィーと認識させるための形を区切ることが最大目的の線です。ミッフィーちゃんはどんな媒体で表現されてもミッフィーちゃんでなければならないので、線は極力同じ方がいいのです。

 一方、ハンス・イヌメの目的は一人一人の人間が違うように、一羽一羽違うニワトリ、一匹一匹違う豚、一匹一匹違う犬、一匹一匹違うカエルを描くことです。同じ種であっても、個々は違う存在です。それを表現するためには、描かれた動物たちは微妙に異なっていなければなりません。しかし、同じ動物を何百匹、何千匹と描いて熟練してしまうと、微妙に違う線で描くということは至極困難なことになってしまいます。彼にとって、この問題を克服するための答えが、モノタイプという技法の採用でした。
 そのモノタイプとはどんな技法でしょう?

(以下、次回に続きます)

 
 2匹と5匹・・・・


イヌメさんにとって作品のタイトルはとても重要です。
彼はこう言います。
「私にとってタイトルとは音と詩的な側面を持つものであり、私の心の中にあるいくつもの感情の襞にとどくものなのです。素晴らしい宇宙の中のこの美しい惑星-地球に住む私たち人間の役割というものをより深く理解したいという私の考えを伝えるために動物たちを描き続けること、それは私の喜びです。私たち人間がこの地球上で最も重要な生き物であるという考え方は私にとっては愚かなことに思えるのです。私は作品を通して私が信じている調和と理解に満ちた世界を表現したいのです」

人間も含めたすべての生き物たちが、等価の命をもって、よりそって生きている、イヌメさんにとってそれが地球の姿なのです。

作品のタイトル:
並んで・・・  side by side
近くにいる   close to you
仲良し・・・  Intimacy
満足 ・・・  To be content

ワン、ツー、ウィー・・・ One, two, we . . .
1,2,we
1匹、2匹・・・じゃなくて「僕たち」だね!



今日はイヌメさんの日本語の画集から興味深いイメージをご紹介します。


日本語版画集の表紙
ちなみに、この画集はウーゴズ・ディレクターの遠藤浩子が翻訳しました。
現在ギャラリー・ウーゴズ南青山で開催中の展覧会で販売しています。


イヌメさんは1951年にオランダで生まれました。
アートスクールを中退したあと、20代の約10年間はプロのロック・ミュージシャンとして活躍していました。



その後、画家としての活動に専念して抽象画を制作します。


1983年の作品
落ち着いた色彩の抽象画ですね。



1987年
抽象画では自分の言いたいことが観客にダイレクトに伝わらないことに
悩んでいたイヌメさんですが、ついにニワトリのモチーフに出会いました。

その後、独特な形に簡略化したさまざまな動物たちを主人公に作品を発表し、
オランダ国内での評価が高まって、パリでも展覧会を開催します。

1999年
この年のパリでの展覧会の直前、画廊の前をスーパーモデルのクラウディア・シーファー
が通りかかりました。まだ開梱途中の作品が偶然彼女の目にとまり、ひと目で気に入った
彼女は、その場で11点の作品を購入し、コレクターとなりました。

2001年
パリの展覧会が大成功をおさめます。
また、日本で初の個展を開催し、以後日本での彼の作品の紹介が進みます。


ニワトリたちの絵を背景に柔和な表情のイヌメさんです。