『1800年頃のイギリスのボタニカルアート:ソーントン、カーティス、サワビーの時代』展です。
[4月28日(土)~5月12日(土) 12時~18時、5月3日はworkshop開催のため15時までとなります]
ソーントン『フローラの神殿』の風景と一体となった植物画のピクチャレスクな世界や、今も刊行され続けているカーティスの「ボタニカル・マガジン」の素直で綺麗な植物図を楽しんでいただけます。

ソーントン『フローラの神殿』より「エジプトの睡蓮」
『ソーントンはセザンヌ的絵画の大先輩だ!』
この絵、なんとも不思議名雰囲気を漂わせている。
遠景のエジプト風の建物や椰子の木のシルエットもそれに一役かっていると思われるが、それだけではなさそうだ・・・そうか、睡蓮の花と葉が水面から飛び出ている。
ふつう、睡蓮の花は水面に浮かび、花は水面すれすれに咲いている。モネの絵がそうじゃないか・・・
だとすると、この花と葉と水面の位置関係は、ハスのそれではないか・・・
でも、花の形状は睡蓮以外のなにものでもない。ハスの花はこんもり丸い。
ソーントンは睡蓮の花と葉をよりよく見せるために自然でははあり得ない睡蓮の花を創作したのだ。
これは、卓上の静物がよりよく見えるように一枚の絵の中に鳥瞰的な視点など複数の視点を導入したセザンヌの絵画と同じアプローチではないのか。
しかも、ソーントンのこの「エジプトの睡蓮」は1804年、セザンヌの静物画(1890年前後の作品)に先立つこと100年近い。なんというソーントンの近代性!
いわば、ソーントンは『フローラの神殿』の絵画性、造形性を植物図譜としての正確性よりも優先させている。『フローラの神殿』は「史上最美」と賞賛される一方で、植物学的には正確ではないと批判されることがある。
しかし、このような批判があることを百も承知でソーントンは確信犯的に『フローラの神殿』の絵画性を優先させる決心をしているのだ。
荒俣宏氏が紹介するソーントン自身の『演出法』に曰く、
ー厳密を旨とする植物学者諸氏におかれても、一般の賛美を得んがためにここまで功利的な美の統合に走った筆者(ソーントンのこと)を、願わくば寛恕されんことを。
(アラマタ図像館④庭園、163頁)
このソーントンの覚悟こそが、『フローラの神殿』が史上希なるドラマチックで蠱惑的な植物図譜となった由縁であろう。