カニさんがお猿さんに、
柿の種と交換におむすびを取られてしまう の巻。
斎藤(猿)×千鶴(カニ)の場合 後編
斎藤が台所に行くと、千鶴が一生懸命、おむすびをにぎっていた。
「土方さん、ずっと仕事ばっかり。
身体を壊さないように、おむすびだけでも食べてほしいな。」
と、独り言をつぶやいているのを聞くと、
いじらしいと思うのと同時に、不思議と胸のあたりがチクッとした。
・・・なんだ?このチクッは?
しばらく、無言で後ろ姿を見ていると
気配を感じたのか、ふいに千鶴が振り向いた。
「あれ?斎藤さん、どうしたんですか?」
「あ・・・、いや、なんでもない。」
思わず台所から立ち去ろうとすると
「お腹がすいたのですね?」
と、にっこり笑いながら、千鶴が言う。
「いや、別に腹がすいているわけでは・・・・」
と、ぶつぶつ言い分けするのも聞かず、
ぎゅっぎゅっと、大きなおむすびを握り
「はい、どうぞ。食べてくださいね。
おかかを、たくさん入れてみました。お好きですか?」
と渡してくれた。
思わず固まって、おむすびを見つめてしまう。
確か、総司は柿の種と、おむすびを交換してもらえと
言っていたはずだが、
何もしないまま、もらえてしまった。
一応、種は渡しておいてほうがいいだろうか
と思案したが、どうも違う気がする。
結局、屯所を出て、一本一本柿の木を探して歩いた。
渋柿ではなく、甘い実がなっているのを探すのは、大変だった。
夕方、着物の裾を少し汚した斎藤が、千鶴の部屋を訪ねてきた。
「・・・・これを。おむすびのお礼だ。」
夕日の色に輝く、はちきれんばかりの柿を見て
千鶴は思わず眼を丸くし、その後嬉しそうにほほ笑んだ。
「ちょっと待っていてくださいね。今、剥きますから。」
それほど食べたかったわけではないが、
二人で半分に分けた柿は、瑞々しくて、とても美味しかった。
「この種、お庭に埋めておきましょうか。
そうしたら、またこの庭で、一緒に柿が食べられますね。」
庭の隅に、柿の種を植える千鶴を眺めながら
斎藤は、とても穏やかな気持ちになった。