神崎すみれの最初のキャラクターソング。
 ゲーム「サクラ大戦」内の個別エンディングで一部が流れる。
 CD初収録は「帝劇歌謡全集」。このCDの他のサクラソングと同様に、すみれ個人の歌というよりは、独立した歌謡曲にすみれの心情や個性を重ねた内容になっている。
 編成はいわゆる「ビッグバンド」で、ライブやショーにゴージャスな生バンドが使われていた時代を再現している。
 サクラソングは最初からライブショウで歌う事を想定して作ったという事だが、キャラクターごとの歌ではこの曲がクライマックスを想定した作りだろう。
 ダンサブルな曲調で、初期のライブやレビュウでよく歌われた曲でもある。

特徴
 4/4拍子、スタジオ収録版はほぼ122BPM(測ると122BPMよりわずかに遅い)で正確に一定なテンポの演奏。
 調は最初が変ロ短調で叙情的、サビで同主調の変ロ長調に転調して、突き抜けた開放的を演出している。
 トリッキーな仕掛けや変化があり、テクニカルさとエンターティメント性の両方で楽しめる作りになっている。

構成
 イントロ A B C C’ 間奏 A B C C’ ブリッジ C C’ アウトロ。
 叙情的なパートでは8小節のメロディの後に余韻を残すかのように、Aメロに1小節、Bメロに2小節が足されている。
 サビの繰り返しの直前で、まるで転調するかのように順次音の上がる箇所があるが、実際には転調はしない「雰囲気だけ転調」のフェイントが効いた仕掛けがある。

和声
 歌メロディの最初は普通すぎるほどのI→IV→V進行だが、「女心」の直後にいきなりトランペットが四度堆積(半音五つ分ずつ)で駆け上がりオーグメントコードに沿って(半音四つ分ずつ)駆け下りる、という急変化を見せ、「ほどいた帯」というシーンの急展開に合わせて音も緊迫感や興奮を煽るものになっている。
 タイトルにもなっている「悩ませる」の歌詞に当たっているのは、不安定なオーグメントコードにさらに#9のテンションを入れた唸るような音で、悩み悶える様が和声でも表されている。

楽器編成
 トランペット、トロンボーン、アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックス、ドラム、ボンゴ、ティンバレス&カウベル、エレキベース、ピアノ、エレキギター、シンセ、男声の掛け声。
 ジャズのフルバンドにラテンパーカッションが加わった編成で、ショウのバンドでそのまま演奏できる編成になっている。
 余談だが、バイオリンなどの弦楽器は管楽器に較べて音量が小さく、マイクで集音する際に周囲の音が胴と共鳴してハウリングが起きやすいので、音量の大きな管楽器と同じ場所で演奏するのが難しい。
 田中公平作家生活30周年(29周年)コンサートで行われたように、影響がある楽器同士を広いステージの端と端に配置するといった対策が必要になる。
 歌謡ショウの生バンドにも弦楽パートがないため、弦楽器を含まないように編曲しなおすか、サンプリングしてキーボードで演奏するなどの手段で代用している。
 本曲のようなラテンミュージックやジャズのビッグバンドなど、元々が近代的なショーの音楽として使われるジャンルなら、ライブ演奏での問題も起きない訳である。

ミュージシャン
 CD「帝劇歌謡全集」ブックレットには全曲分まとめて30人ほどの名前がクレジットされ、この曲もそのうちの誰かが演奏しているという事になるのだが、ここではトランペットの数原晋氏について紹介したい。帝都・巴里の曲のトランペットの大半を演奏している人である。
 スタジオミュージシャンとして間違いなく日本トップのトランペッターであり、無数の作品に参加している。例えば誰しもが耳にした事があるであろう「必殺シリーズ」「ルパン三世シリーズ」「天空の城ラピュタ」のパズーの吹くトランペット曲「ハトと少年」等々。
 本曲「なやましマンボ」の中でも、普通なら木管や鍵盤が担当するような高低差がある特殊なスケールや、一番最後に出てくる全サクラソングのトランペットパートで最も高いHiHi-B♭の音など、超高難度な箇所をこともなげに演奏している。

ダンス音楽シリーズとして
 本曲『なやましマンボ』から、『絶対運命のタンゴ』『すみれチャチャチャ』と続く、音楽ジャンルがタイトルになっているシリーズの第一作でもある。
 これは、すみれの「洋風ダンス免許皆伝」という設定を反映していると思われる。
 なお、マンボに掛け声は特に必要ではなく、マンボを有名にした楽団指揮者ペレス・プラードが声を出すのが知られているだけなのだが、あの「ウッ」が無いとマンボらしくない事もあり、そのためだけに用意された男声パートが入っている。

マンボとすみれの役割の関連
 マンボ自体は現実の大正時代にはまだ無かった音楽ジャンルではあるが、意味の上で関連があるのはその名の由来である。
「mamboという言葉とはハイチの土着宗教ヴードゥーの女司祭の名前で「神との対話」の意味を持つ」(Wikipediaより)。
 理論でしかなかった霊子機関を自らの霊力で実現させ、華撃団構想の重要ポイントである芸能活動を成功させたトップスターである事を考えれば、華撃団・歌劇団の両方の設立までの中心的人物である事がわかる。穢れを払い祭事を執り行う司祭の役を見事に体現しているのである。

他のキャラクターとの関係
 変ロ長調は管楽器では基本となる調である。さくらが鍵盤楽器の基本となるハ長調のイメージなのと同じく、すみれが物語でのもう一人の中心的人物である事を伺わせる。
 また『エチュード』と構成が似ている事は、すみれが自分と境遇の似ているアイリスとのシンパシーを感じている、という設定を思わせる。


ライブバージョン
 歌謡ショウ「愛ゆえに」では生バンドで演奏された。ダンスアンサンブルが入るため間奏が長いバージョンになっている。コール&レスポンス的に歌詞の「マンボ」を客席も合唱する演出がなされている。
 また、ライブではトランペットの難度の高すぎる所は木管楽器に置き換えられている。演奏にチャレンジしてみたい人にはライブバージョンのアレンジが参考になるのではないだろうか。

 1998年の花組クリスマスコンサート「奇跡の鐘」ライブでは、六人編成のバンド(ドラム・エレキベース・エレキギター・ピアノ・サックス・キーボード)で生演奏された。管楽器が一本しかない所はシンセで補う形。
 ライブハウスなどでこの曲を演奏する際に、実現しやすいバンド編成となっている。


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