もうすぐ夏がくる。
広大な土地に鳴き響くのはセミの声。
ここで過ごす、初めての夏。
「・・・こはる?なんだか少し顔色くないか?」
真っ青な顔で席に着くこはる。
笑顔を浮かべているもののすごくつらそうだ。
「そ、そうですか?!・・・元気なんですが・・・」
見るからに嘘だとわかる。
「嘘なんて付かなくていいよ。おでこ貸して」
こはるのおでこに触れても熱くない。
熱はないようだ。
「夏バテかな・・・よし、病院に行こう」
「そ、そんな!大丈夫ですよこれくらい!ただ吐き気があるだけで・・・深琴ちゃんにお手紙出した時に聞いてみたんですけど『それは病気じゃない』って言われましたし」
いつの間に深琴に手紙を出していたのだろうか。
と、いうより。
「・・・なんで俺に相談しないのかなぁ」
相談してくれなかったことが一番悲しかった。
「そ、それは・・・あまり男の人に話せるような内容じゃなかったもので・・・」
「夫婦でも?」
少し顔を赤く染めたこはるに問いただす。
すると、言いにくそうに。
「・・・その、月のものが来なくて」
「月のもの?」
頭に疑問が浮かぶ。
しばらく考えた後、何かが結びつきそうになった。
「・・・それで、吐き気があって・・・」
どんどん声が小さくなっていくこはる。
「家にある医学書で調べたら・・・その、妊娠だって書いてあって・・・」
「え?」
驚きで声が出た。
「深琴ちゃんに聞いたらきっと間違えはないだろうって言われました。・・・それで、来月の駆くんの誕生日に言おうかと」
こはるが顔を上げた刹那。
「か、駆くん?!」
俺はこはるを抱きしめていた。
強く、苦しくなるほど。
「・・・それ、誕生日のお祝いにしては豪華すぎ」
こんなときどういう表情をしたらいいのだろうか。
涙が出てきそうだし、嬉しくてうれしくてたまらない。
「でも、深琴に言うよりも先に俺に言ってほしかったな・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・」
シュンとするこはる。
「謝らなくていいよ。・・・子供、か。男の子かな?女の子かな?」
「私は男の子がいいです!」
キラキラと輝いた目で言う。
「どうして?」
俺としては女の子のほうがいい。
可愛くて、こはるみたいな愛らしさを持ってて。
生まれてきてもいないのにお嫁に出さずずっと手元に置いておきたい気分になる。
「男の子だったら・・・駆くんがもう一人増えるからです!」
思わず笑いがこぼれた。
「俺達は本当に似た者同士だね。よし、もし男の子だったら次は女の子を作ろう!女の子だったら男の子!」
「話が早すぎませんか?でも大勢の家族って憧れてましたし、嬉しいです!」
―――俺の苗字になったら幸せな家庭が築けるよ
あの時の言葉。
俺は叶えられているだろう?
「・・・俺が父親、かぁ」
夢のような現実。
「私も母親になるんですね・・・。早く生まれてきてほしいです!」
このまま消えてしまってもいいくらいの幸せ。
父さんからの洗脳も無事に解けて、やっと手に入れられた『本当』の俺の人生。
「ここにいるんだね、俺達の宝物」
こはるの腹部に触れる。
まだ実感はないけれど、ここに命が宿っているのだ。
「沢山沢山話かけましょう!」
「あぁ、お母さんの恥ずかしい話もね」
「や、やめてください!」
*
春が来た。
桜が咲き誇る春。
日本の桜は本当にきれいだ。
ここにきて何度めの春だろうか。
1年、2年・・・。
それより多くの年月を過ごしてきたこの広大な場所。
「父さん母さん!お花がいっぱい咲いてます!」
子供は男の子だった。
こはると同じ桃色の髪に双眸。
少しドジなところまでこはるにそっくりだ。
「ほら、歩も見える?」
そして。
男の子が生まれた翌年には俺が欲しがっていた女の子が生まれた。
最近ようやく歩けるようになった歩は俺の手をぎゅっと握っていて。
暖かさが伝わってくる。
「空汰は母さんに抱っこかい?相変わらず子供だね」
「か、駆くん?!目が怖いです!」
息子の空汰はあの空汰からとった名前だ。
今頃どこで何をやっているのだか。
「父さんも母さんに甘えん坊・・・。夜も一緒のお布団です。父さんも子供ですか?」
こはるの顔が真っ赤に染まった。
「う~ん、どうだろう?お父さんは子供だけど大人なんだ」
よくわからないと言わんばかりに首をかしげる。
「駆くん、教育に悪いです」
「ごめんごめん」
僕達夫婦に2人の子が増え。
賑やかな生活になった。
こはるが抱えていた『孤独』はもうどこにもないはずだ。
「こはるは・・・幸せ?」
「はい!とても幸せです!」
それは。
彼女の笑みが証明してくれる。
「よーし、もう一人子供作っちゃおうか!」
「はい!って・・・えぇ?!」
もっともっと。
彼女に楽しい生活をしてもらうために。
幸せになってもらうために。
否。
この広大な土地が笑いであふれかえるように。
「俺は・・・君に笑っててほしいから」
いつか、彼女の孤独であった過去が消え去るくらい。
楽しい思いでが彼女の心に上書きされればいいなと。
思わずにはいられなかった。
広大な土地に鳴き響くのはセミの声。
ここで過ごす、初めての夏。
「・・・こはる?なんだか少し顔色くないか?」
真っ青な顔で席に着くこはる。
笑顔を浮かべているもののすごくつらそうだ。
「そ、そうですか?!・・・元気なんですが・・・」
見るからに嘘だとわかる。
「嘘なんて付かなくていいよ。おでこ貸して」
こはるのおでこに触れても熱くない。
熱はないようだ。
「夏バテかな・・・よし、病院に行こう」
「そ、そんな!大丈夫ですよこれくらい!ただ吐き気があるだけで・・・深琴ちゃんにお手紙出した時に聞いてみたんですけど『それは病気じゃない』って言われましたし」
いつの間に深琴に手紙を出していたのだろうか。
と、いうより。
「・・・なんで俺に相談しないのかなぁ」
相談してくれなかったことが一番悲しかった。
「そ、それは・・・あまり男の人に話せるような内容じゃなかったもので・・・」
「夫婦でも?」
少し顔を赤く染めたこはるに問いただす。
すると、言いにくそうに。
「・・・その、月のものが来なくて」
「月のもの?」
頭に疑問が浮かぶ。
しばらく考えた後、何かが結びつきそうになった。
「・・・それで、吐き気があって・・・」
どんどん声が小さくなっていくこはる。
「家にある医学書で調べたら・・・その、妊娠だって書いてあって・・・」
「え?」
驚きで声が出た。
「深琴ちゃんに聞いたらきっと間違えはないだろうって言われました。・・・それで、来月の駆くんの誕生日に言おうかと」
こはるが顔を上げた刹那。
「か、駆くん?!」
俺はこはるを抱きしめていた。
強く、苦しくなるほど。
「・・・それ、誕生日のお祝いにしては豪華すぎ」
こんなときどういう表情をしたらいいのだろうか。
涙が出てきそうだし、嬉しくてうれしくてたまらない。
「でも、深琴に言うよりも先に俺に言ってほしかったな・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・」
シュンとするこはる。
「謝らなくていいよ。・・・子供、か。男の子かな?女の子かな?」
「私は男の子がいいです!」
キラキラと輝いた目で言う。
「どうして?」
俺としては女の子のほうがいい。
可愛くて、こはるみたいな愛らしさを持ってて。
生まれてきてもいないのにお嫁に出さずずっと手元に置いておきたい気分になる。
「男の子だったら・・・駆くんがもう一人増えるからです!」
思わず笑いがこぼれた。
「俺達は本当に似た者同士だね。よし、もし男の子だったら次は女の子を作ろう!女の子だったら男の子!」
「話が早すぎませんか?でも大勢の家族って憧れてましたし、嬉しいです!」
―――俺の苗字になったら幸せな家庭が築けるよ
あの時の言葉。
俺は叶えられているだろう?
「・・・俺が父親、かぁ」
夢のような現実。
「私も母親になるんですね・・・。早く生まれてきてほしいです!」
このまま消えてしまってもいいくらいの幸せ。
父さんからの洗脳も無事に解けて、やっと手に入れられた『本当』の俺の人生。
「ここにいるんだね、俺達の宝物」
こはるの腹部に触れる。
まだ実感はないけれど、ここに命が宿っているのだ。
「沢山沢山話かけましょう!」
「あぁ、お母さんの恥ずかしい話もね」
「や、やめてください!」
*
春が来た。
桜が咲き誇る春。
日本の桜は本当にきれいだ。
ここにきて何度めの春だろうか。
1年、2年・・・。
それより多くの年月を過ごしてきたこの広大な場所。
「父さん母さん!お花がいっぱい咲いてます!」
子供は男の子だった。
こはると同じ桃色の髪に双眸。
少しドジなところまでこはるにそっくりだ。
「ほら、歩も見える?」
そして。
男の子が生まれた翌年には俺が欲しがっていた女の子が生まれた。
最近ようやく歩けるようになった歩は俺の手をぎゅっと握っていて。
暖かさが伝わってくる。
「空汰は母さんに抱っこかい?相変わらず子供だね」
「か、駆くん?!目が怖いです!」
息子の空汰はあの空汰からとった名前だ。
今頃どこで何をやっているのだか。
「父さんも母さんに甘えん坊・・・。夜も一緒のお布団です。父さんも子供ですか?」
こはるの顔が真っ赤に染まった。
「う~ん、どうだろう?お父さんは子供だけど大人なんだ」
よくわからないと言わんばかりに首をかしげる。
「駆くん、教育に悪いです」
「ごめんごめん」
僕達夫婦に2人の子が増え。
賑やかな生活になった。
こはるが抱えていた『孤独』はもうどこにもないはずだ。
「こはるは・・・幸せ?」
「はい!とても幸せです!」
それは。
彼女の笑みが証明してくれる。
「よーし、もう一人子供作っちゃおうか!」
「はい!って・・・えぇ?!」
もっともっと。
彼女に楽しい生活をしてもらうために。
幸せになってもらうために。
否。
この広大な土地が笑いであふれかえるように。
「俺は・・・君に笑っててほしいから」
いつか、彼女の孤独であった過去が消え去るくらい。
楽しい思いでが彼女の心に上書きされればいいなと。
思わずにはいられなかった。