日本の風景29 | クーさんのブログ

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歴史が好きです。アバウトで主観的な考察なので受験には役立ちません。

 

 

 

 

 N子の執念

 

 

 

 

 

 以前、我が家に「 N子 」という猫がいました

 

 変わった性癖を持っていました。

 

 誰かが床にモルタルを塗っていると、その上を歩いてみないと気が済まないのです。

 

 

 

 

 

 

   ( 写真はお借りしました )

 

 

 

 

 

 ある日、新調した流し台に高さを合わせ、台所床のモルタルを塗り直して貰ったのです。

 

 

 すると、作業をしていた左官屋さんから呼ばれました。

 

 

 

 

 「 お宅の猫がウロウロして、邪魔なので、どうにかしてよ 」

 

 「 床の仕上げ撫でが終わる途端、待ってたように横断する 」

 

 

 「 その手直しが終わったかと思うと、また来て横断する 」

 

  「仕事にならないよ 」

 

 

 

 

 私はN子を抱えると、奥の部屋に連れて行き閉じ込めました。

 

 

 書斎にいて、暫くすると

 

 

 

 「 ああぁー! 」

 

 

 

 と左官の悲鳴が聞こえます。

 

 飛んでいくと、何度目かに仕上げたモルタルの上をN子が、歩き回っているではありませんか。

 

 

 

 窓が開いていたのでしょうか。

 

 うっかり家内が戸を開けたのかしら。

 

 左官は文句たらたらで、私は恐縮するばかり。

 

 

 

 ところが、そうしている間にもN子は、モルタルの床に踏み込もうとするのです。

 

 その寸前、私は、やっとのことで、その体を掴むことが出来ました。

 

 ところが、N子は驚くほどの頑強な抵抗を見せるのです。

 

 体の重心を低くし、クロールのように前足を交互に伸ばし、捕まえている私を引きずりかねないほどの力を発揮します。

 

 

 遂にN子は私の腕を脱しモルタル床に飛び込もうとしました。

 

 私は辛うじて尻尾を捕まえ、綱引きのようになったのです。

 

 必死の形相と、その執念には呆れてしまいました。

 

 

 

 

 それから暫く経った、ある日のこと。

 

 

 公民館の駐車場を通ると、工事が行われています。

 

 公道からの入口部分にコンクリートを張っているようです。

 

 

 

 

 

   ( 写真はお借りしました )

 

 

 

 

 

 作業は大方終了し、表面を鏝(こて)で仕上げています。

 

 すると作業員が大声を上げました。

 

 

 

 「 ああー! また猫が来たー! 」

 

 

 

 ハッとして振り返ると、ちょうど猫が、コンクリート仕上げ面に片足を踏み込んだところでした。

 

 見ると、それはN子なのです。

 

 

 

 「 こらーっ! 」

 

 

 

 作業員の大声に驚いたN子は、わざわざコンクリートの中央を走って逃げたのです。

 

 

 まだ乾いていない表面に、二列の足跡が鮮やかに残りました。

 

 

 作業員は悪態をつきながらも綺麗に手直しをし、仕上げ終えると、ビニールシートを掛けて帰っていきました。

 

 

 

 翌朝、気懸りな私は、現場を通ってみたのです。

 

 ちょうど、ビニールシートが取り払われるところでした。

 

 作業員の中から驚きの声が上がります。

 

 

 

 「 あーっ! 」

 

 

 

 もう固まってしまったコンクリートの表面に、またもや二列の猫の足跡が、くっきりと刻されていたのです。

 

 

 

 N子の執念のなせる業に違いありません。

 

 夜中に、誰もいなくなった現場に行き、軟いモルタルの上を、独り心行くまで踏んで来たのでしょう。

 

 

 

 

 私は逃げるように、その場を立ち去りました。

 

 

 

 

 

   ( 写真はお借りしました )