慌しく出産の夜が終わり、そらが白み始めたころ八重子は傍らの赤ん坊のむずかる声で目を覚ました。
身二つになり始めて乳房を赤ん坊の口に含ませると、勢いよく乳を吸いはじめた。
トクはすでに床をあげて土間で朝の支度に取り掛かっていた。
赤ん坊が再び眠ると八重子も床をあげて 
あさげの仕度に取り掛かった。

子供が起きないように、そおっと、汁を吸いながら
トクはゆうべの出来事を思い返していた。
記憶がぼんやりと遡っていくうちある場所で止まった。
八重子の陣痛が始まり産婆の到着を待つ間のほんのひと時の静寂の間だったが八重子は何かを告白しようとしていた。
直後におきたてんやわんやで完全に吹き飛んでしまったが、たしかに言った。
「お腹の子は利三太の子ではない」 と。
それをいま聞き糾そうと思ったが、食事を終えた八重子の方から口を開いた。