今日、僕は魔術師になった。 | シュエットさんの一人ラジオ。略して『シュエラジッ!』放送局

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更新頻度
・BS団の活動は不定期ですね。
・小説もやります。
・その他も不定期です笑
・グラブルの攻略を書きます。
・動画上げているので紹介記事
簡単に言えば不定期更新のブログです!

キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムが鳴る。僕は、目を覚ます――
ふと、窓の外を見る。そこには、
――黄金に光る雲、森羅万象、有象無象を吸い込んでいきそうな赤い空があった。

 視界の端に人影が見えた。
「おーぃ、五十嵐、起きているかー? 下校時間だぞ、早く帰れよー」
……間違いない、僕のクラスの担任、バーコード頭でビール腹の綾瀬だ。
「ふわぁ~ぃ、わかりましたぁー」
ネコの伸びの如く、あくびをしつつ、伸びをした。
「まったく、お前ってやつは……普段からネコっぽいが、さらにネコっぽいな」
小柄だし、最後に付け加え、ガッハッハと静かな校舎に響く。最後の一言が余計であった。

 次の瞬間、めきり、と綾瀬先生の背中が軋んだ。笑い声が苦痛を訴える悲鳴に変わった。
現実を受け入れられない五十嵐の前で真っ二つに爆発した。そして、その体内から噴き出たものは赤い血飛沫ではなく、ソレは、ただ “泥”として形容できない、ただただどす黒い、泥のような “何か”であった。
「―――――――――――――‼」
声にならない悲鳴を上げ、五十嵐は教室を飛び出た。

――見えない恐怖に怯えて。

――聞こえない恐怖に怯えて。

 「ハァハァハァ……‼」
完全に息の上がり切った五十嵐は教室を飛び出た後、必死で一階の玄関へと走った。
「ちょっと‼ 生存者いるの? この場面で⁉」
街中で悠々と歩くライオンでも見たかの如く驚く女性の声が響き渡った。
「ユキ、この学校の土地での生体反応は……この場にいる二人だけみたいだよっ」

「……そう、ありがとう、アストルフォ。そうすると、貴方が唯一の生存者ね」
姿の見えない明るい声に氷のような冷たい声で反応し、ゆっくりと五十嵐の方を向く。
「あら、剣道部期待の新人、五十嵐君、元気そうね?」
間違いない、同じクラスのユキだ。でも、おかしい。
彼女は、今日は学校を休んでいた。
「き、君は今日、休んでいた……」
「そう、私は今日、学校は休んだわ? でも……」
予定ができちゃって、と首を傾げて笑った。
「そ、そ、そ、そんなことより先生がっ……‼ うっ……」
つい数分前の事を思い出し、嗚咽しながら蚊の鳴くような声で言った。
「えぇ、知っているわ? だって、この目で見ていたんですもの」
「え?」
「一般人に分かるように言うと魔法使いなのよ、私。正しくは、魔術師」
表情がコロコロ変わって面白いわね、と笑う。
「だ、だったら、見せてくれよ⁉」
うわずった声で訴える。
「いいわ、見せてあげる、ちょっと出てきてくれる?」
「やった! 待ってたよ、マスター♪」
すーっと、出てきたのは、ピンク髪のボーイッシュな美少女……?
「わっ‼」
驚いて、尻餅をついた五十嵐に更なる追い討ちをかけるような言葉が少女の口から飛び出た。
「僕の名前は、アストルフォ♪ アルって呼んでね♪ えーっと、自己紹介だよね……。あ‼ 身長は164cmで、体重が56kgの男だよっ♪」
五十嵐は、耳を疑った。頬をつねった。耳もつねった。そう、目の前にいるのは……

―――――――男だったのだ。

「ええええええええええええええええええええええ‼」

「ちょっと、驚き過ぎだよ……」
ムンクの叫びの如く口をあんぐりとしている五十嵐と苦笑いするアルと微笑を浮かべているユキであった。

 
 「つ、つまり、アルは男の娘だと……」
「ちょっと、それ以外の事は頭に入ってないの⁉」
落ち着いた五十嵐は、また、ムンクの叫びになるかと思うような話をユキから聞かされた。
この学校のある市――つまり、八王子市の土地は……この国の土地には、呪いがかかっていて、その呪いの起点がこの近くの山の頂にある、と。そして、私たちはそれを終わらせようとしている、と。
「ジェノサイド……」
一オクターブ下の声でボソッとアルは呟く。
「集団殺害、集団殺戮ってことね……」

空気が一段と重くなる。

皆が、口を閉ざす中、ハッと顔を上げ、

「同類がいるみたい、弱っているけど……‼」
「敵?」
すかさずユキが聞く。
「いや、味方だと思う」
「じゃあ、行きましょう、マスター候補はいるみたいだし」
「そうだねっ♪」
ユキとテンションが戻ったアルは五十嵐の方を向く。
「「さぁ、行くよ? 新人くん?」」
「えっ、えっ、ちょ⁉」
混乱する五十嵐は引きずられていくのであった。
 外に出てアルは何かを呟いた。
その瞬間、アルの正面に上半身は鷲、下半身は馬の幻獣が現れた。
「ヒポ‼ 早かったね‼」
「こいつは?」
先程から、驚きまくっているせいで感覚が麻痺をし始めた五十嵐は問う。
「まぁ、相棒? 兄弟? ってとこかなー♪」
まるで、その言葉に反応したかのように、ヒポはアルに甘える。
「さぁ、行くわよ? 目指すは南西の方角‼」

飛び立つ1匹と2人の背は勇ましく、美しかった。

 向かう先々には骸、骸、骸、骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸骸。

「ちょっと、これは多すぎないか⁉」
感覚が完全に麻痺をしてしまった五十嵐は驚く。
「おっどろいたー、ここまでやられちゃうなんて思わなかったわ、ね、アル」
「時間と共にこの惨状は広がっていくんだよ、急がないとねっ♪ そろそろ着くよっ♪」

 降り立ったのは高尾山の頂上。ここが頂上だということを示す山頂の標識を中心に広がる不気味な魔方陣を視界に捉える。
「僕の技術じゃあ、これは解けないね……まっ、この近辺にいるヤツに賭けるしかないねっ」
前向きなやつめ……と思っているとユキが提案をしてきた。
「私たちは向こうを探すわ? 五十嵐君、君は向こうを探して? 異論は認めないわ」
「わ、わかりました……」
「んじゃ、見つけたら、呼んでね?」
と言い残し、2人と1匹。
「ちょっと、俺1人かよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉」
高尾山の山頂に残念な発言が響き渡った。
 「まったく、どんな奴かもわからないのに一人って酷くないか⁉」
一人になり、少し落ち着いた五十嵐は愚痴をこぼす。
「一応、木の棒位は持っていていいよな? だいたい、なん……」
だよ、と言い切る前に反射で鮮やかに体を捌く。
先程まで顔のあった位置に光の玉が飛んできたからだ。
「ちょ、だ、誰だよ⁉」
「……お主、少しはやるようのぅ?」
光の玉が飛んできた先の大木の根元に女性がいた。
よく見ると、和服に狐耳、大きな尻尾というあからさまに探している対象だということが分かる。だが、顔がやつれている。
「近付くな? 近付くとこれを浴びせかけるぞ?」
女性は指を鳴らすと、その周りに光の玉が現れる。
その数、およそ30個。
「貴女に用があるんですけど……」
「ならば、避けてみるのじゃ‼」
もう一度、指を鳴らす。
「もうやけくそだ‼ 押し通るっ‼」
低い姿勢で走り出す。迫りくる光の玉。

「うおぉぉぉぉぉぉ‼」


―――夢を見た。

―――夢を見た。

―――夢を見た。

一度は、敗走する夢を。いいや、違う。

一度は、不思議な竹藪の中、鳥や猪や様々な動物たちが風が走る夢を。

そして、この窮地を切り抜ける方法を。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
魔術師はこのことを肉体機能強化(フィジカル・エンチャント)と呼ぶ。

30の内、6発を低姿勢でかわす。

24の内、10発を神がかり的な体捌きで捌く。

残り14発を……獣の如く光の玉に襲いかかる。

体を宙に浮かせ、1発目を地に叩きつけたかと思えば、2発目、3発目と次々と叩き落としていった。
そして、最後の1発をねじ伏せ片膝を着き、女性の方を向く。周辺の空間には雪のように細かい光が舞っていた。
「ハァハァハァ……‼ グッ……‼」
言葉を発することなくともわかる。フィードバックが大きいことを。
 五十嵐は、いや、五十嵐家はかつて魔術師の家系であった。
しかし、忘れ去られたのであった。その遺産、魔力は脈々と受け継がれている。通常、魔術の血というものは代を重ねるにつれ濃く、強大になっていく。そして、五十嵐へとたどり着いた。
なぜ、フィードバックが大きいかというと、今まで使われていなかった回路が使われたからである。
「ほう、見込みのあるやつじゃのぅ」
不敵な笑みを浮かべ、品定めするかのように、全身を舐めまわすかのように五十嵐を見た。
「それで、瀕死の我に何のようじゃ?」
五十嵐は喘ぎ喘ぎ言葉を紡ぐ。
「貴女……に、あ……の魔方陣……を、壊して欲しい……‼」
「よかろう、今のお前なら十分な魔力供給をしてくれそうじゃ。契約を……むっ?」
最後まで言い切れぬうちに地面に亀裂が走った。
地響きが収まり、周囲を見渡す。するとおよそ20m先に黒き巨人が現れた。
「―――――――――――‼」
声とは思えないまるで、地獄の住民の反乱の勝ち鬨のような声が高尾の山々に響き渡る。
ドンドン、ドンドンと足音を気にせず、大きな巨体を揺らしこちらに迫ってくる。死にかけた二人に迫る。
「助けてくれよ……助けて、くれよ……‼」
―――風が凪いだ。



「分かった。助けるよ」

「いざ征かん、飛蹄幻馬(ヒポグリフ)‼」


その瞬間、何が起きたかわからなかった。
黒い巨体は地に沈み、消え始めた。
さらには、二人は空を飛んだ。
「ふぅ、間に合ったわね……ありがとう、アル」
「ギリギリセーフだねっ♪」
「あ、そうそう、僕の宝具は一時的なものだからすぐ襲ってくるよ? 次はやつは本気で」
「そ、そうなのか……⁉ ん?」
驚く五十嵐の服の裾を女性が引っ張る。
「この者たちを信じていいのか?」
「あぁ、全く問題ない、味方だ」
「礼を言うぞ? わらわは玉藻御前。ふぅ、疲れるから普通の口調でいいよね‼ 良妻狐で経験豊富、狐耳のお手伝いさんです‼ どうぞ気兼ねなくおよびくださいね」
「「「……あっ、はい」」」
先程の凛としていた姿はなく、心なしか少し若返った気がする。
「まぁ、いいや、お前、名を何と申す?」
ビシッと指を指された先にはボロボロの五十嵐。
「お、俺? い、五十嵐だけど」
「うむ、よい、マスターとして認めよう。いや、ご主人様っ‼」
初めは真剣であったが、後半の言葉はハートが飛んできそうな、勢いであった。
「へー、こんな簡単に契約できるのか……」
ぼそっと呟いたが、ユキの耳には聞こえたらしい。
「そんな、そんな簡単な術式であるはずないわ‼」
驚きを隠しきれないユキに対し、玉藻御前はあっけらかんと答える。
「わらわを何だと思うてる? 半分は神の血が流れているのじゃ。ねっ、ご主人様ー?」
「あ、あのー、僕もいるんだけどな……」
「むっ‼ 男なのに可愛いやつじゃのぅ~。」
「か、可愛いなんて……」
ポッ、と顔を真っ赤にして、顔を隠す。
「からかいたいのは山々じゃが、アレが動き始めたみたいじゃ、ご主人様ー?宝具の開帳の許可ちょうだい?」
一撃で消し去ってやるから、と付け加えた。
「いいよ、タマモ」
「やったー‼ タマモって呼んでくれた‼ じゃあ、頑張っちゃおうーっと」
ヒポからさっと浮かび上がると宙に浮遊し始めた。

―――ここは我が国。豊かな国。水は湧き、森は歌い、

空は笑う。聞け、我が声を。

我が名は九尾の狐、玉藻御前。

時代は変われど今、ここに真なる姿を見せよう。

一本、二本、三本、四本、五本、六本。更には、七本、

八本、九本。

本来の霊格を取り戻した今、貴様に天罰を下す。

玉藻鎮石―――

言葉を言い切った瞬間、姿が太陽によって見えなくなった。そして、高尾山一帯を照らす。
「―――――――――――‼」
咆哮することしかできない黒き巨人は瞬時に蒸発した。
更には山頂の標識を中心とした魔方陣も消えた。

「いぇーい‼」

かなり上空の方からピースをしてくるのであった。


《数時間後……五十嵐家》
 すべてが終わったはずだった。しかし、なぜこんなことに⁉
「あら、おかえりなさい‼ ってあら、モテ男さんね~」
母が出迎えてくれた。
「モテ男じゃないよ?」
あと、男が混じっているし、と心の中で付け加える。
ふと、テレビを見ると『謎の現象‼ 高尾山、神々しい光に包まれる』の文字が。
人が死んだ、というニュースは皆無であった。
タマモに問う。
「あれは、呪いを浄化するだけではなくて、人も生き返るのか」と。
すると、タマモは、
「そうですよ、ご主人様? だって私、神様ですもん♪」

《次の日の朝》
 僕は、目を覚ます――

朝の準備をして、家を出る。

洗いたてのような青い空。

洗いたてのような白い雲。
 
洗いたてのような世界。

一夜にして、すべてが生まれ変わったように見えた。
少なくとも僕はそう、思った。

今日も、剣道部は休みだ。

今日も、僕は机に突っ伏す。
             Fin